責められるのは“母親”だけなのか? “赤ちゃんポスト”を通して見えてきた子を預ける家庭の現実

2022年07月15日 07時30分

ライフスタイル eltha



15年を迎える慈恵病院『こうのとりのゆりかご』


 「見方を変えれば“子捨て”になってしまう。15年前、私が父からこの話を聞いた時、報道された論評のように、安易な育児放棄の助長につながらないかと心配していました」。今年で15年を迎える『こうのとりのゆりかご』(以下『ゆりかご』)は、九州・熊本県にある慈恵病院が行っている取り組みだ。親が子を育てる。それはあたかも“当たり前”の摂理のように言われるが、そもそも子育て自体、容易なことではない。さらには世の中には育児放棄、児童虐待、乳児遺棄の事件が後を絶たない。倫理や道徳、“当たり前”とは何か。“現場”では何が起こっているのか。慈恵病院院長・蓮田健医師に話を聞いた。


【動画】家族から虐待、パートナーに無視され、働くのも困難…「自宅出産」した女性が、赤ちゃんを病院に預けなければならなくなるまで


■「両手をあげて賛成できなかった」父が開設した『こうのとりのゆりかご』 “現場”は、“理想”や“当たり前”で語れるものではない


 2005~2006年、熊本県でとある凄惨な事件が起こっていた。3件の新生児遺棄事件だ。そして、うち2人の赤ちゃんの尊い命が失われた──。ちょうどこの時、慈恵病院の先代院長・蓮田太二医師はドイツの「ベビークラッペ」を視察していた。これを参考に誕生したのが『ゆりかご』だ。2007年の話で、当時、賛否両論を巻き起こしたことを覚えている方も多いだろう。


「父の述懐では“やはり批判されるのではないか”と申しており、それを覚悟で始めたようです。実は、私自身も話を聞かされた時は、先述のように安易な育児放棄の助長につながるのではないかと、両手をあげての賛成はできませんでした。ですが、ゆりかごに来られる女性たちと接触を重ねることによって、彼女たちが決して安易な気持ちからではなく、必死な想いで赤ちゃんを託しにきているということを理解しました」


 理想を言えば、やはり産んだ赤ちゃんは親がしっかりと育てるべきだ。それが“当たり前”だ。その赤ちゃんを、都合が悪いからと言って、簡単に手放すべきではない。これが容認されると、安易に妊娠し、捨てる親が増えてしまう。当然の意見であり、15年前の蓮田健医師も父がやろうとしていることに理解が追いつかなかった。


 だが往々にして、“現場”は、“理想”や“当たり前”という概念だけで語れるものではない。蓮田健医師は「本人の責任と言ってしまうにはあまりではないかと感じるケースが多数ある。追い詰められ、孤立するにはそれだけの理由があるのです」と語る。


■『ゆりかご』を訪れる母親の多くが家庭環境に問題あり 父親の存在が透明化され、追い詰められる苦しみ


 では、その「孤立するだけの理由」とは何だろう。現在、『ゆりかご』に預け入れされた赤ちゃんの数は161人。その理由のほぼ90%を占めるのが「男性側が力を貸してくれない」「協力してくれない」「見放された」「裏切られた」ケースだ。「それ、本当に俺の子どもか?」――『ゆりかご』を訪れる母親の中には、そう言われてしまった女性が非常に多い。


 慈恵病院は2021年11月にYouTubeでWEB動画「【妊娠、出産】赤ちゃんを自分で育てられない方へ。匿名(とくめい)で赤ちゃんを出産できたり、預けたりできます。【こうのとりのゆりかご動画/慈恵病院】」を配信した。これは68万回再生(※2022年7月時点)され、コメントの中には「いつも思うけど、妊娠って双方の責任だよね。なぜいつも女性だけが矢面に立たされて悪者のように扱われないといけないのか?」「父親の存在が透明化されている。責任を負うのは母親ばかり」など、男性側の無責任さや産む側である女性への負担を嘆く声があった。


 とは言え、それでも中絶という手もあるのではないか、また産んだのなら育てるのが“当たり前”なのではないか、と考える方もいるだろう。だが蓮田健医師は、彼女たちにそれができない3つの理由があると語る。


 「『ゆりかご』を訪れる母親、匿名での内密出産希望者、遺棄殺人者の9割以上に(1)発達障害、知的障害のボーダーライン、(2)親からの虐待経験がある、(3)家族との関係不良、のいずれかが認められます。特に彼女たちの母親がキーパーソンとなります」


 元々、蓮田健医師も知人の精神科医から『ゆりかご』は精神科の案件だと言われたことがあり、それに憤慨したことがある。だがそれを指摘された後に、『ゆりかご』に来る女性、裁判になってしまった女性たちを見てみると、知人の言うことは当たっていた。


 確かに、見た目では気づかないレベルの発達障害や知的障害が認められる者が多かった。虐待によって思考が萎縮している者もいた。「そもそも自宅で赤ちゃんを産むという行為そのものが尋常ならざる状況。“当たり前”に産婦人科へ行く判断ができないほど能力的にも白旗を上げている状態なのです」


 中絶に関してはこんなケースもある。その患者は、以前妊娠20週という、赤ちゃんが生きているという証の胎動も分かる状態で中絶をした経験があった。だがこの場合、陣痛を起こして産まなければならない。その上で、殺害する…。肉体的にも精神的にもトラウマになり、中絶を再び選べなかったのだと言う。


■「出自を知る権利より、虐待、殺害、遺棄事件が減る方を、つまり“命”をより重く考えている」


 母親がキーパーソンとはどういうことか。慈恵病院を尋ねる女性たちはみな孤立しているが、実家の母親がしっかりしている場合、『ゆりかご』に預けても、後に方針を変え「自分で育てる」パターンがあるとのこと。極限まで追い詰められても、自ら引き取る。その場合、その日中、遅くとも1週間以内に連絡が来るそうだ。


 ちなみに『ゆりかご』の運営についてだが、赤ちゃんが預けられるとまずアラームが鳴る。監視カメラや暖房、赤外線で温かくする装置があり、預けられて1分以内に看護師たちが集まる。預け入れがあった時点で児童相談所の管轄になり、1時間以内に児相と警察が来て事件性を確認。その後の処遇は熊本市役所が半年に1回主催する第三者検証委員会で検証される。また相談業務もあり、昨年度は4000件ほどの相談をフリーダイヤルで受け付ける。


 『ゆりかご』の前で赤ちゃんと離れられずに泣いて立ち尽くしている場合は、慈恵病院の管轄になる。そこから特別養子縁組へ。こうした完全な体勢は世界でも唯一であり年間2000万の予算がかかる。ゆえにハードルが上がり、全国に広まらず、慈恵病院のみという皮肉な結果も招いている。北海道で同様のことをしようとした事例があり、行政から指導を受けた報道も記憶に新しいところだ。


 だが、すでに亡くなった赤ちゃんが預け入れられる場合も。「なぜ、そんな酷いことをするのか」とさすがの蓮田健医師も憤るが、先述の精神科のボーダーラインの件もあり、複雑だ。


 「批判も批判の言葉のお気持ちも分かります。また赤ちゃんが自身の出自を知る権利についても承知しております。ですが、私たちの立場では、その出自を知る権利より、匿名でも赤ちゃんを預け入れることにより、虐待、殺害、遺棄事件が減る方を、つまり“命”をより重く考えている立場です」


 赤ちゃんは親が育てる、赤ちゃんにも自身の出自を知る権利がある。しかし、その“当たり前”は子どもを産む母親や彼女たちが置かれた家庭環境の前では揺らぐ。『ゆりかご』の15年の取り組みは「育児放棄を助長する」と片付けるには複雑な問題が絡んでいる。子どもの虐待、殺害、遺棄事件が絶えない今、地方の一つの病院の奮闘を社会全体で考えるフェーズにきているのではないだろうか。

(取材・文/衣輪晋一)

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