「あらあら、照れちゃって」クセ強な異性との仲を誤解する“アットホーム職場”、漫画作者語る「ハラスメントは世代間ギャップも大きい」
現代にはびこる“クズ男”の生態をリアルに描いたオムニバス漫画『クズメン百鬼夜行』シリーズが人気を集めている。クズメンとは距離を置いてやり過ごすのが“最適解”ではあるが、もしも一方的に好意を持たれてしまったら…。職場という逃げられない環境で、クズメンに翻弄された女性が反撃に出るまでを痛快に描いた『あいつ俺のこと好きなんですよ』の作者・廻先生に、「アットホームな職場」の落とし穴について話を聞いた。
【漫画】「あいつ俺のこと好きなんですよ」社内で言いふらす“勘違い同期”、便乗する周囲にも怒り…「虫唾が走るほどキライ!」反撃エピソード
■いい人ばかりの職場で「トラブルを起こしたくない」、若手社員の心理
──一方的に彼氏面してくる男性の奇行ぶりを描く本作ですが、舞台となる職場の描写が実にリアルで読み応えがあります。
【廻さん】舞台は人間関係が良好な、いわゆるアットホームな職場です。女性社員が上司の出張のお土産を配ったり、慰労会と称した飲み会が定期的に開かれたりと、昔ながらの慣習も残ってるけれど居心地はいい。またこういう会社は、社内恋愛から結婚へと発展しやすい環境とも言えますよね。
──ヒロイン・双葉も気になる先輩・木村がいて、2人の雰囲気はとてもいい感じに見えます。順当に行けばすんなり恋愛に発展しそうな2人ですが…。
【廻さん】本シリーズのテーマは“クズメン”ですので、そう簡単には収められません(笑)。本作のクズメン・堀畑は、「双葉は俺に惚れてる」と確信している勘違い男です。双葉が嫌がっても「素直になれないだけ」と勝手に解釈し、職場で呼び捨てにしたり、頭をポンポンしたりといった匂わせ行動によって、「2人は付き合っている」という彼の中の既成事実を周囲に植え付けるという手段を取ります。
──外堀から埋めていくというわけですね。こうしたクズメン被害は「あるある」なのでしょうか?
【廻さん】アットホームな職場がゆえ、ですね。それこそ小学校の頃によくある話で、ちょっと仲がいい2人を周囲が「付き合っちゃえよ~」と囃し立てるみたいな。人間関係が近い場では、恋愛がらみの噂もすぐに広まるし、また「2人を応援しよう」みたいな妙なアシストの空気も生まれがち。勘違い系クズメンがつけ上がりやすい環境なのでは、というイメージで描きました。
──最後の最後に双葉が反撃に出るシーンではスカッとしましたが、堀畑の暴走をもっと早く止めることはできなかったのでしょうか。
【廻さん】もちろん早い段階でノーを突きつければよかったんでしょうけど、入社したての双葉にとっては「職場でトラブルを起こしたくない」という心理が強く働いているんですよね。「和気あいあいとして働きやすいし、(堀畑以外は)いい人ばかり。私さえ我慢すれば」という。
■“コミュニケーションのズレ”が引き起こす人間関係のトラブル
──たしかに本作ではクズメンに集約していますが、職場で人間関係トラブルがあっても我慢している人は多いかもしれません。
【廻さん】しかも恋愛がらみとなると、職場ではなかなか声を上げづらいですよね。また明らかに職場におけるハラスメント行為なのに、「個々のトラブル」として片付けられてしまうこともあると思います。双葉が堀畑に逆襲する場面でも、社長に「痴話喧嘩はやめなさい」と言われてしまいましたし…。高齢の「社長世代」には、まだまだそういう認識の人もいるんじゃないかなと思います。
──アットホームな職場の社長らしい悪気のないタイプなだけに、「痴話喧嘩」のセリフには苦笑いしてしまいました。
【廻さん】何がハラスメントになるかというのは、世代間ギャップも大きいですよね。だけど「うれしい」とか「腹が立つ」といった人間の感情は、今も昔も変わっていないはずです。私は古典落語が好きなんですが、コミュニケーションのズレを題材にしたお話は、そのまま現代に置き換えても面白いものがいっぱいあるんですよ。
──本作はまさに、コミュニケーションのズレが引き起こしたクズメン被害例でした。クズメンをテーマにマンガを描く醍醐味はどこにありますか?
【廻さん】クズメンをガッツリ叩きのめすという、ある種のハッピーエンドを描けることですね。現実社会ではみんなどこか我慢しているわけで、マンガの中くらいはスカッとしていただきたいんです。それこそ昔は落語が日常の憂さを忘れさせてくれたように、いつの時代も普通に頑張って生きている人と同じ目線で届けるエンタメって必要なんじゃないかなと思っています。