「I think.」~私は考える。~|12星座連載小説#135~双子座 最終話~

2017年08月08日 21時15分

ライフスタイル anan

12人の女性たちの生き方を、12星座になぞらえて紹介していくショートクロスストーリー『12星座 女たちの人生』。 キャリア、恋愛、不倫、育児……。男性とはまた異なる、色とりどりの生活の中で彼女たちは自己実現を果たしていく。 この物語を読み進めていく中で、自身の星座に与えられた“宿命”のようなものを感じられるのではないでしょうか。

文・脇田尚揮

【12星座 女たちの人生】第135話 ~双子座-最終話~


―――半年後……


『今シーズン、久保選手の活躍が楽しみですね! ……以上、横浜スタジアムより江崎がお送りいたしました!』


カメラワークの後、“OK”のサインが出る。


『ふぅ……』


今日も無事終わった。スポーツキャスターになって、もうすぐ3ヶ月か……。


インタビューは、選手個人を相手にしながら、視聴者に情報を届けなくちゃいけない。これまでやってきた、ニュースを読み上げる仕事とは勝手が違うから、まだ慣れないわ。


もう一度、選手達に挨拶をして、スタジアムを後にする。


―――半年、かぁ……


広がる青空に、義久さんを思い浮かべる。


今となっては、何だか全てのことが夢だったんじゃないかと思える。“あの日”以来、彼には連絡していないし、彼からも連絡はない。


たまに思い出してはチクリと胸が痛む。一緒に食事をしたこと、愛し合った時間、それらは風化することなく、今でも私の中に眠っている。


“ケンゴ”と名乗る男の正体は、結局分からずじまいのまま。彼からも半年前の電話以降、何の音沙汰もない。


今の私に残っているもの……。


それはスポーツキャスターとしての立場と、この胸の痛みだけ。


それだけが、確かに感じられるもの。


「フリーとしてやっていく」


そう言っていた義久さんを、毎日色んな番組でさがしているけど、まだ見かけてはいない。せめて何をしているか知ることができたら……。


義久さんとの未来に対する“覚悟”すらない私が、そんなこと思う資格なんてないんだけどね……。


どこまでも広がる青い空に、義久さんのことを思いながら、スタッフと会社に戻る。



それは“青天の霹靂”だった。


帰社して一息つき、いつものようにキャスターが出演している番組をスマホでチェックする。これが私の日課。


こうして毎日、義久さんの動向をチェックしているのだ。


すると……。


茨城県の地方ニュースのフィールドキャスターに“新垣義久”の名前。


『う……そ……』


義久さん、復帰したのね……!


スマホを持つ手が震える。


彼が今、どんな生活をしているかは分からない。でも、こうしてキャスターという仕事を続けてくれていることが、ただただ嬉しかった。


何でもいい。彼が出演していることを、この目で確かめたい。


確か……。報道部署なら、各局のニュース番組をチェックできるはず!


義久さんの出る番組は……、夕方4時からね…!


私の足は、報道部署に向かっていた―――


彼の番組開始まで、あと5分。時間がない。


テレビ局の“顔”として、将来を有望視されていた彼の人生を、私がつまずかせてしまった。


そういう後ろめたさが、私の心に影を落とし、こびりついて離れなかったのだ。


早く……早く……、彼の姿を見たい……!


『すみません! キャスター事業部の江崎です……失礼します!』


報道部のドアを勢いよく開けると、各局のニュースがズラリと画面に並んでいた。


そこから、『茨城ニュース』を探す……。


報道部スタッフ達はきっと、“鳩が豆鉄砲をくらった”ようにポカーンとした顔をしているだろう。


でも、今、確認しなきゃ……私……


―――あった!


まだ、今、コマーシャル中だけど、確かに彼が出演する番組。


開始まで、あと30秒。


間に合った。

間に合ってくれた。


食い入るように、画面を見つめる私。


そして番組は始まった―――


……義久さんだ。


半年ぶりに見る彼の姿。少し痩せたかしら。


でも、確かに義久さん本人。


爽やかな笑顔と朗らかな口調は変わっていない。グレーのスーツに紺のネクタイも、懐かしい。


場所は違えど、今こうして、彼もTV局で仕事をしている。それが、たまらなく嬉しい。


それから私は10分間、ずっと釘付けだった―――


もう私たちは、会って話したり、食事したり、愛し合うことはできないかもしれない。だけど、こうしてお互いの姿、声を確認し合うことはできる。


―――いつでも、繋がっていられる


その思いが、私を奮い立たせる。



報道部を出る。何だろう、この清々しい感覚。


仕事をしたい。とにかく、仕事をしたいと思う。


私が働いている姿も、義久さんに見てもらいたい。私が今、ここに在るということを知ってもらいたい。


それだけが唯一、私たちに“赦された逢瀬”なのだから……。


襟を正して、キャスター事業部に戻る。


私はこれからも、このTV業界で“女子アナ”として上を目指し続けていこう。


でも、その志は以前とは違う。


もう、つまらない自己顕示欲を満たすためだけに生きるのは止めよう。これからは、義久さんに“輝く自分”を見てもらうために、頑張るんだ……!


いつか、また彼と顔を合わせた時、胸を張っていられるように。


双子座の女の人生は、


“I think.” ~私は考える。~


好奇心のままにいろんなことに手を出して、痛い思いをするかもしれない。


でも、経験に裏打ちされた、確かな“生きている感覚”を掴んでいる。


失ったものに、思いを馳せながら、自分と世界との境界線を知って、洗練された自分になっていく。


それは他の何ものにも変わりえない、私だけの特別な体験……。


銀座で買ったネックレスを握り締め、私は誓う。


私は今、輝き始めます―――。


双子座の女の人生 ~Fin~


【今回の主役】

江崎友梨 双子座25歳 アナウンサー

23歳の時にアナウンサーとしてTV局に入社。有名大学出身だが1年浪人している。ハイソサエティな世界に憧れを抱いており、自分を磨く努力も怠らない。現在、同じアナウンサーでもあり、上司である新垣義久と不倫関係にある。当初は踏み台にしようと考えていたが、だんだんと彼に惹かれキャリアと恋の間で、悩み揺れる

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