依存症、低賃金、ハラスメント...サービス業界が抱える闇に迫る【英映画】

2022年07月14日 19時30分

エンタメ anan

仕事やプライベートで思うようにいかないとき、誰もが経験したことがある我慢の限界。そこで、今回ご紹介するオススメの1本は、“沸騰寸前”の人々を映し出し、ハラハラと共感が止まらない注目作です。

『ボイリング・ポイント/沸騰』


【映画、ときどき私】 vol. 502


一年でも、最も賑わうクリスマス前の金曜日。ロンドンにある人気高級レストランでオーナーシェフを務めるアンディは、妻子と別居したことで疲れきっていた。そんななか、店内では次々とトラブルが起き、スタッフたちの間も一触即発状態になってしまう。


そこに追い打ちをかけるように現れたのは、アンディのライバルシェフ。店内で予期せぬトラブルが続出するなか、アンディは脅迫まがいの取引を持ちかけられる。すでに心身の限界点に達していたアンディは、波乱に満ちた一日を切り抜けることができるのだろうか……。


編集もCGも一切なしの90分間ワンカットによって制作されたことでも話題の本作。驚異の映像に各国で絶賛の声が巻き上がっていますが、その舞台裏についてこちらの方にお話をうかがってきました。

フィリップ・バランティーニ監督


俳優としてのキャリアを積みながら、現在は監督としても注目を集めているバランティーニ監督。過去には、シェフとしても15年ほど働いていたことがあり、本作は当時の経験からアイディアが生まれた作品となっています。今回は、実体験から痛感している社会的な問題や撮影時の苦労、そして日本から受けている影響などについて、語っていただきました。


―本作で描かれているエピソードというのは、すべて実際にご自身が経験したことや周りから聞いた出来事を基に構成されたのでしょうか。


監督 そうですね。この作品では、僕が見たことや経験してきたことすべてを入れています。僕はシェフとして働き始めてから10年で料理長になりましたが、その業界のなかでは早いほうだったので、“集中コース”みたいな感じで働いていました。


もちろん、おもしろさと情熱があったからできたことでしたが、劇中のアンディが経験していたようなストレスもあり、非常に大変な思いをしたことも……。僕がお酒を飲まなくなって7年が経ちますが、キッチンで働いているときはアンディと同じくアルコール依存症になったこともありました。そういう意味でも、僕自身に近い作品となっています。

みんなが共感できるリアルな映画を作りたかった


―依存症以外にも、過酷な労働環境や低賃金、人種差別、ハラスメントなど、さまざまな問題を描いています。それらを映画にしたいと思うようになったきっかけはいつですか?


監督 映画を作りたい気持ちはつねにあったので、何かあればメモに残したり、エピソードを頭の片隅に記憶したりしていました。ただ、自分に自信がなかったため、監督に挑戦できないままでいたというのが実際のところです。そんななか、大きなきっかけとなったのは、6年前に母の死を経験したこと。そこから、自分の夢を追求しようという思いに駆り立てられるようになりました。


僕がこの題材を取り上げたいと思った理由のひとつは、サービス業界にはエンターテインメントになりやすい要素が多いから。とにかくスリリングでエキサイティングですが、そのいっぽうで悲しいことも起きますよね。悲喜こもごも、いろんな出来事があるので、映画にしやすいと感じました。


―レストランを舞台に描いたほかの作品とは、かなり違う印象を受けましたが、意識されていたことは?


監督 サービス業界やレストランについて描かれているこれまでの作品に関して言うと、僕はあまりリアルではないと感じていました。だからこそ、みんなが共感できるほどリアルな映画を自分が作りたいなと。


本作で描いていることは、サービス業界だけでなく、金融や銀行、建築など、強いプレッシャーがかかりやすいさまざまな業界の人たちにも通じることなので、多くの方に共感してもらえるのではないかなと思っています。

撮影はすべてが大変だったが、毎日楽しかった


―また、本作の大きな特徴といえば、90分間のワンカット。店内の構造などの点においても、かなり大変だったと思いますが、どのようにして撮影されたのでしょうか。


監督 ワンカットで撮ること自体とてもチャレンジングなことでしたが、なかでも一番大切にしていたのは、自然に見せること。そのために、多くのプランを事前に準備する必要がありました。


そこで、まず初めにしたのは、カメラマンと僕の2人による練習。撮影場所となるレストランの営業時間外、つまり早朝と深夜に、レストランのなかでリハを行いました。内容としては、僕がすべてのキャラクターをひとりで演じ、それをカメラマンが追いかけるというもの。それを4週間近く続け、全体の流れが決まってきたら、俳優たちを入れ、セリフを作りながらのワークショップとリハをしました。


―撮影を振り返ってみて、特に苦労されたことといえば?


監督 すべてが大変でしたが、35人にも及ぶ登場人物全員がその場にいるというのは難しかったところかなと。というのも、通常の映画を撮る場合は、話している人というのは数人で、カメラに映らない人は控室で待ってもらうことが多いですよね? それに比べて、この映画では全員がレストラン内にいて、しかも同時にしゃべってもいるので、そこが苦労したところでした。


あと、本当は8テイク撮る予定でしたが、スケジュールの変更が原因で4テイクしかできなかったというのもありましたね。本編では3回目の映像を使用しています。ただ、すごく楽しくもあったので、大変ではあるけれど、毎日笑顔で仕事ができていたのでよかったです。素晴らしいチームに支えてもらいましたし、「みんなで最高の映画を作ろう!」と一致団結していたので、とても充実した時間になりました。

光を当てた社会問題について、人々に考えてほしい


―今回は即興やアドリブをかなり取り入れて撮影されたそうですが、それだからこそ生まれたシーンというのがあれば、教えてください。監督自身が驚いたこともありましたか?


監督 特に驚いたのは、副料理長のカーリーがマネージャーに叫んでいるシーン。モニター越しでもすごい緊張感が伝わってきて、息もできないほどでした。


即興の部分は、リハでも何度かしましたが、回を重ね過ぎて新鮮味がなくなってしまわないように気をつけています。撮影中は何が起こってもおかしくないので、撮影中は身を乗り出して構えていたほど。それくらい、最初から最後まですべてが刺激的でした。


―劇中では飲食業界のみならず、社会が抱えているさまざまな問題を次々と見せています。それらを改善するためにはどこから取り組んでいくべきとお考えですか?


監督 ここで描いていることは、どれも早急に改善しなければいけないものばかりですが、残念ながらいまの世の中ではこれらの問題がすぐに解決するのは難しく、常にあるのが現状だと言わざるを得ないでしょう。ただ、はっきりと目に見えない場合もあるので、そんななかで僕ができることといえば、社会のなかにある問題に光を当てて浮き上がらせ、人々に考えてもらうことだと思っています。


そのほかに重要なものとしては、メンタルヘルスに関して。イギリスではだいぶ援助の手が広がってきたところもありますが、まだ解決したとは言い難い状態だと感じてます。

この10年でイギリスの料理は進化を遂げた


―日本のカルチャーで影響を受けているものや好きなものがあれば、教えてください。


監督 残念ながら、日本にはまだ行ったことがありませんが、絶対に行きたい国のひとつです。何が大好きかというと、日本の食べ物。お寿司も好きですが、一番はラーメンですね。特に、僕はシェフだったこともあって、日本の料理には大きな影響を受けました。ある時期には、日本とイギリスの料理を組み合わせてフュージョンのような料理を作っていたほど。日本の材料を使って料理をすることを楽しんでいました。


もし日本に行ったら、観光客向けではないリアルな経験をしたいと考えています。大好きな映画のひとつに『ロスト・イン・トランスレーション』があるので、いつか日本で映画が撮れたらいいですね。とにかく、僕のやりたいことリストの上のほうにあるのが、日本に行くことです。


―昔から「イギリス料理はマズい」というイメージは根強くあり、正直に言うと、私も20年以上前には現地でそのような印象を受けました。ただ、個人的にはここ10年ほどで料理の質が上がっているだけでなく、ジャンルの幅も広がっていると感じています。日本の観客にも、いまのイギリス料理の良さについて教えてください。


監督 本当にその通りで、イギリスの食事情はここ10年くらいでかなり進化しました。いろんな食材が手に入るようになりましたし、ロンドンに行けば世界中の食べ物も楽しめるようになったほど。そんなふうに、さまざまな国の食文化が入ってきたからこそ、イギリス料理も成長せざるを得ない状況になったのだと思います。


そのなかでもカギとなってるのは、何といっても食材の素晴らしさ。お肉や魚、オーガニックの野菜、パンなど、質の高いものが手に入るようになりました。それと同時に、健康的なものを食べたいという人々の意識も高まってきたのも、この10年でイギリス料理がステップアップした理由だと思います。

驚異の没入感に興奮も高まり続ける!


これまでのレストラン映画にはないようなスリリングな展開と、ワンカットによる圧倒的な映像力でも話題沸騰の本作。リアルを追求したことで生み出される臨場感と息を飲むような緊迫感が“最高のスパイス”となり、味わったことのない映画体験へと誘ってくれるはずです。

取材、文・志村昌美

目が離せない予告編はこちら!


作品情報

『ボイリング・ポイント/沸騰』

7月15日(金)ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国公開

配給:セテラ・インターナショナル


️© MMXX Ascendant Films Limited

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2022年07月14日 19時30分

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