母を自宅で介護する14歳...「歌に魅せられた貧しい少年」の輝く成長を描く【仏映画】

2022年06月23日 19時30分

エンタメ anan

2022年もまもなく上半期が終わりを迎えますが、そんなときにオススメの映画といえば、厳しいなかでも新たな道へと進み出そうとする主人公を描いた作品。そこで、今回ご紹介するのは、フランスから届いた珠玉の1本です。

『母へ捧げる僕たちのアリア』


【映画、ときどき私】 vol. 496


南仏の海沿いの町にある古ぼけた公営団地で、3人の兄と暮らす14歳のヌール。長年、昏睡状態に陥っている母を兄弟だけで自宅介護する生活は苦しく、まだ中学生ながら夏休みは兄の仕事の手伝いと家事に追われる毎日を過ごすことに。


そんなヌールの欠かせない日課は、毎夕に母の部屋の前までスピーカーを引っ張っていき、母が大好きなオペラを聴かせてあげることだった。ある日、教育奉仕作業の一環で校内清掃中だったヌールは、歌の夏期レッスンをしていた声楽講師のサラに呼び止められる。そして、歌うことに魅せられていくのだが……。


2021年のカンヌ国際映画祭で<ある視点部門>に正式出品されたのをはじめ、国際的な評価を得ている本作。そこで、今後のフランス映画界を背負っていく新たな才能としても注目を集めているこちらの方に、お話をうかがってきました。

ヨアン・マンカ監督


俳優と舞台演出家としてキャリアをスタートさせたのち、映画界でも才能を発揮しているマンカ監督。今回は、自伝的な要素も含まれているという物語の背景や人間にとって芸術が必要な理由などについて、語っていただきました。


―主人公のヌールにはご自身が芸術と出会ったときの体験を重ねているそうですが、それによってどのように変化があったのかについて教えてください。


監督 僕自身も、ヌールと同じように14歳前後のときにフランス語の先生と出会ったことがきっかけで、演劇に興味を持つようになりました。当時は、学校の授業で習うくらいの一般的な知識しかなく、演劇のことはまったく知りませんでしたが、その先生のおかげで自分のなかにそういった興味があることを発見したのです。それはまさに、劇中で声楽の先生がヌールの才能を見い出したのと同じような感じでした。


そこから演劇に夢中になったわけですが、世界の見方だけでなく、家族や自分の人生に対する見方までも変わっていったのです。そんなふうに、僕でも新しい道へと進むことができたので、いまの若い人たちにもそれが不可能ではないこと、そして道は必ず開かれることをこの映画を通して伝えたいと思いました。

文化や芸術のない社会は、この世の終わり


―日本は、芸術に対する支援が足りてないと言われているところがありますが、監督はなぜ人に芸術が必要なのだと思いますか?


監督 僕は「芸術がない社会は、社会ではない」と思っています。なぜなら、世の中に芸術がなければ、人間は希望もユーモアも喜びも感じられないロボットのような生き物になってしまうからです。


実際、これまでの独裁者たちは文化や芸術を禁止することによって、世の中をとてもつまらないものにし、人々が夢を持たないようにしたこともありましたよね。そういったこともあり、僕は文化や芸術のない社会は、“この世の終わり”だと思っています。


―本作の4兄弟は貧困を抱えるだけでなく、若くして母親の介護問題にも直面しています。彼らをヤングケアラーとして描こうと思ったきっかけについても、お聞かせください。


監督 彼らの貧しさを描くうえで、まだ子どもなのに大人と同じような責任感を負わされて生きなければいけないというのを見せたかったので、そのような設定にしました。そういう意味では重要なポイントですが、この映画におけるテーマにしようと考えたわけではありません。フランスでは、まだ社会問題として取り上げられるほど話題になっているわけではないというのが現状です。

若いうちにオペラに触れる機会を多く持ったほうがいい


―劇中では、幅広いジャンルの曲を効果的に使っていますが、選曲や曲の組み合わせでこだわったのはどのあたりでしょうか。


監督 初めに考えていたのは、ヒップホップとオペラというふたつの世界を対峙させたいということでした。ただ、そこまで難しく考えていたわけではなく、選んでいくうえで意識していたのは、自分がこのシーンでどの曲を聴きたいかという感覚だったと思います。


―今回オペラを使ったのは、監督自身が名曲「人知れぬ涙」に魅了されたことがきっかけだったそうですが、いまだにオペラは敷居が高いと感じている人が多いと思います。ただ、この作品では誰もが楽しんでいいものであると示しているので、監督が思うオペラの楽しみ方があれば教えてください。


監督 まずは、若いときになるべく多くの時間をかけて聴くことが大事ではないかなと。とはいえ、普通に生活していてオペラに興味を持つきっかけに恵まれることはなかなか少ないかもしれません。それでも、なるべくそういった音楽を聴く機会を見つけることがまずは必要だと思っています。


―監督は音楽に救われた経験もありますか?


監督 僕は、音楽よりも演劇や映画に救われたほうが大きいかもしれないですね。影響を受けた作品を挙げるなら、セルジオ・レオーネ監督の『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ』、フランシス・フォード・コッポラ監督の『地獄の黙示録』、マーティン・スコセッシ監督の『グッドフェローズ』などです。

映画を通して、社会の不平等をなくしたい


―ヌールが歌うシーンをはじめ、俳優たちは素晴らしかったですが、演出するうえで意識されていたこととは?


監督 僕は細かいところまでとてもこだわるほうなので、リハーサルは何度も行いました。とはいえ、ある程度詳細を説明したら、あとは俳優の自由にさせることが多かったかなと。ただ、歌に関するシーンは、とても難しい場面でもあったので、あらかじめ脚本で細かく決めており、その通りに演じてもらいました。そもそも、キャスティングの時点で、大半のことは決まっていると思っています。


―兄弟以外には講師役のサラも非常に大きな役割をはたしていますが、このキャラクターにはどんな思いを込めましたか?


監督 今回、僕はサラという女性を神秘的に描きたかったので、あえて彼女がどこから来たのか最後までわからない人物という設定にしました。また、重要だったのは、彼女がとても強い女性であるというのを示すこと。男性たちに何をされても、決してされるがままではなく、きちんと抵抗する姿も描きました。


―今後、芸術を通して監督が伝えたいことをお聞かせください。


監督 自分の映画を通して成し遂げたいことは、まず社会の不平等をなくすこと。いろいろな人の道を開いて夢や希望を与えることと、住みやすくていい社会にすることです。そして、人間の弱い部分というのは誰にでもあることも伝えていけたらと考えています。

芸術に国境はないことを感じてほしい


―また、いよいよ公開を迎える日本に対してはどのような印象をお持ちですか?


監督 今回の公開に合わせて行けなかったことが残念でたまりませんが、日本にはずっと行きたいと思っているので、近いうちにぜひ遊びに行きたいですね。僕は日本の文化が大好きなのですが、特に日本映画だと黒澤明監督。あとは、家族の描き方が非常に上手い是枝裕和監督も好きな監督です。日本映画というのは全体的にとても繊細で、キメの細かい仕事をされているので、学ぶことが多いと感じています。


―それでは最後に、ananweb読者にメッセージをお願いします。


監督 僕はみなさんに何か言えるほど日本社会について詳しいわけではありませんが、映画を観ていただければ、きっとそこにある普遍的なものを感じ取っていただけると思っています。それは、「芸術に国境はない」ということ、それから「家族の愛は大きくて美しい」ということです。

どこにでも“希望の光”は必ずある


厳しい現実と向き合いながらも、新しい出会いと自らの才能を信じて未来へと飛び出そうと成長を遂げる少年の姿を映し出した本作。芸術が人にもたらす力を感じるとともに、音楽の美しさと家族への愛が持つ強さに、誰もが心を揺さぶられる必見作です。

取材、文・志村昌美

心を掴まれる予告編はこちら!


作品情報

『母へ捧げる僕たちのアリア』

6月24日(金)よりシネスイッチ銀座ほか全国順次公開

配給:ハーク


️©Philippe Quaisse Unifrance.️© 2021 – Single Man Productions – Ad Vitam – JM Films

anan

2022年06月23日 19時30分

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