軍人の妻を描いたイギリス人監督「戦争は前線から離れた人も傷つけてしまう悲劇」

2022年05月18日 19時00分

エンタメ anan

日常をより豊かなものにするうえで欠かせないものといえば、音楽。そこで、いまオススメしたい映画は、音楽によって人生が変わった女性たちの実話を描いた感動作です。

『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』


【映画、ときどき私】 vol. 484


2009年、愛する人を戦地へと送り出していたのは、イギリス軍基地で暮らす軍人の妻たち。最悪な知らせが届くことを恐れながら、その帰りを待っていた。そこで、大佐の妻ケイトは、同じ立場にいる女性たちを元気づけ、ともに困難を乗り越えるために、合唱団を結成することを提案する。


方針の違いから、初めは衝突を繰り返していたメンバーだったが、バラバラだった心と歌声は徐々にひとつになっていく。そこに届いたのは、毎年大規模に行われる戦没者追悼イベントのステージへの招待状。ところが、浮足立っていた妻たちのもとにある知らせが届くことに……。


イギリスの駐屯地に住む軍人の妻たちが始めた合唱団の物語は、女王陛下の前で歌唱をしたり、オリジナル曲で全英チャート1位に輝いたりとイギリス全土で大きな反響を呼んだ実話。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

ピーター・カッタネオ監督


本作を手掛けたのは、日本でも大ヒットを記録した『フル・モンティ』で知られるカッタネオ監督。今回は、映画化するまでの道のりや作品を通じて伝えたい思いなどについて、語っていただきました。


―まずは、この合唱団のことを知ったきっかけやどういったところに魅力を感じたのかについて、教えてください。


監督 最初に彼女たちのことを知ったのは、あるドキュメンタリーを観ていたときのこと。途中から泣いてしまった僕は、これをベースに映画を作ったら素晴らしいものができるのではないだろうかと考えるようになりました。なぜなら、エモーショナルな映画体験を生み出す“ハートの部分”が音楽になる作品だからです。


その後、実際の合唱団に会いに行ったとき、そこで目の当たりにした彼女たちから生まれるエネルギーが素晴らしかったので、ますますやる気に火がつきました。


―彼女たちに映画化のことを伝えた際、アドバイスやリクエストなどもあったのでしょうか。


監督 まずは、「見ていてつまらないようなキャラクターにはしないでね」と言われました。特に、家でただパートナーの帰りを待っているだけの女性像にはしないでほしいと。自分たちの人生もしっかり持っているし、そこには笑いもあるものだから、と教えてもらいました。そういったこともあって、この映画ではしっかりとユーモアを描いています。


そのほかに、気をつけなければいけないと思ったのは、映画のトーンについて。あまりセンチメンタルになりすぎてもいけないし、重すぎてもいけないというのは意識しました。

実際の基地では、パワフルな体験をした


―撮影は、本作のモデルとなった駐屯地のなかで行ったということですが、実際に基地で暮らす人々の生活に触れてみて、どのような印象を受けましたか?


監督 最初にセキュリティのゲートを通って入っていくのですが、あの瞬間というのは僕にとってパワフルな体験でした。あとは、子どもたちが走り回っている隣に戦車があったり、軍人がいたりする光景は普段見ないものだなと感じたのを覚えています。


基地のなかはすごく静かで、戦地とはかけ離れていますが、それでもその様子を見ていると、前線のことが頭をよぎりますし、こういう生活のなかで悲しい知らせが来る瞬間とはどんなものなのかと改めて考えさせられました。そういうことを知るだけでも、とても強いインパクトを受けたと思います。


―ちなみに、基地の方々は最初から受け入れてくださったのか、説得までに苦労した部分もあったのか、撮影中の様子についても教えてください。


監督 初めからとても協力してくれました。おそらく、合唱団が活動を始めてから10年ほど経っていたというのもよかったんだと思います。結成当初は軍からあまりよく思われていないところもあったようですが、いまでは合唱団が完全に軍の一部となっているからです。


軍自体も以前に比べると、ひとりずつのメンタルヘルスに気を配ったり、しっかりとフォローするようになっていたりして、オープンな体制に変わっていたので、それもよかったのかなと。軍のみなさんも、この作品に協力することをとても喜んでくれました。

音楽のシーンでは、リアルな瞬間を捉えられた


―素晴らしいですね。そして、この作品では音楽シーンも見逃せませんが、どういったところにこだわったのでしょうか。


監督 今回は、本物のサウンドを表現するため、すべての歌唱シーンは撮影現場でライブ録音しています。また、初期の頃は、アマチュア合唱団の不完全な状態を見せるためと荒削りな自然さを大切にするため、リハーサルを行わずに撮影しました。


そのほかに大変だったのは、俳優さんたちが歌に対する自信のレベルがかなり違ってたこと。歌うことに恐怖心を持っている人もいれば、うますぎるくらいの人もいたので、それを揃えていく必要はありました。そんななかで、彼女たちが曲にグッと入っていく瞬間はそのままを捉えられたので、リアルなものが映っていると思います。


―だからこそ、彼女たちの歌には込み上げてくるものがありました。本作には、個性豊かなキャストが揃っていたと思いますが、彼女たちと合唱を通じて学んだこともありましたか?


監督 本当に幸せオーラの溢れる現場で、みんながすごく仲良くなったのですが、一緒に歌を歌うことによってお互いのことを知れたのがよかったのかなと。人前で合唱するためには、自分の“仮面”を外し、さらに自分を解放しなければいけないですからね。


そのおかげで非常にうまくいったところがあったので、今後はほかの現場でも、リハーサルの1日目にはみんなで歌を歌ってもらおうかなと(笑)。チームを作るうえでは、とても素晴らしい方法だと思いました。

日本とイギリスには、似ている部分が多いと感じた


―なるほど。実際、イギリスのみならず、海外にも合唱団を作るムーブメントが広がったということなので、どんな方にも有効な方法かもしれませんね。私たち日本人にとっても興味深いところですが、監督は日本に対してどのような印象をお持ちですか?


監督 日本には映画のプロモーションで行ったことがありますが、とにかく時差ボケがひどくて街をフラフラと歩き回っていた覚えがあります。そんななか、魚河岸でお寿司を食べた思い出がありますが、あれ以来、あんなに美味しいお寿司は食べてないですね(笑)。


そのときに世話をしてくださった方から、日本とイギリスは同じ島国であることや人間関係の築き方などが似てる部分があると言われましたが、確かにそうだなと。実際、まるでイギリスにいるような感じで日本の滞在を経験することができました。


―本作は2020年にイギリスで公開されていますが、日本で公開を迎える2022年は、戦争について改めていろいろと考えさせられるタイミングとなりました。それによって、この作品に対する見方も変わってくるところはあるのではないでしょうか。


監督 確かにそうですね。2年前は、いまほどの大きな戦争はありませんでしたが、それでも戦争というものがいかにいろんな人に影響を与えているかというのは描きたいと思っていました。愛する人が何千マイルも離れたところで戦っていたとしても、その戦いは家のなかにまで伝わってきてしまうものですから。


そして、誰かのことを心配する気持ちは、まるで前線で起きたことが断層線のように伸びて、戦地から遠く離れた人にまで届いていくような感じだと思っています。そういった悲劇に対してどう対応していくかというのを描くのが重要だったので、今回は政治的な局面や戦地で何が起きているかについては、あえて描きませんでした。

立ち上がって、周りより頭が出てもいい


―劇中で、「従順な妻路線はナシ!謙虚なヒナゲシじゃなくて、ヒマワリになってやろう」 という彼女たちのセリフに心を動かされる女性も多いと思うので、最後にananweb読者へメッセージをお願いします。


監督 英語には「出る杭は打たれる」の出る杭のように、「背の高いヒナゲシになるな」という表現がありますが、それは実際に彼女たちが言われていた言葉だと聞きました。それが面白いと思って取り入れたので、実はタイトルも「背の高いヒナゲシ」を意味する「Tall poppies」にしようかと思っていたほど。だからこそ、みなさんにも「背の高いヒナゲシのように、立ち上がって頭が出てもいいんだよ」とまずは伝えたいと思っています。


あとは、ひとりよりも大勢で何かすることで生まれるパワフルさも感じていただけたらいいなと。合唱団というのは、まさにそれを体現しているものですが、みんなで力を合わせて歌うからこそ、あそこまで美しい声になるのだというのも楽しんでいただきたいです。

一緒に笑って泣いて、前を向く!

ひとりでは抱えきれない悲しみや不安があるときこそ、互いに支え合うこと、そして歌って笑い合うことの大切さを教えてくれるハートフルストーリー。苦しみのなかでも強さを身に着けた彼女たちから、勇気と元気をもらえる珠玉の1本です。

取材、文・志村昌美

歌声に魅了される予告編はこちら!


作品情報

『シング・ア・ソング!~笑顔を咲かす歌声~』

5月20日(金)よりヒューマントラストシネマ渋谷・有楽町、グランドシネマサンシャイン池袋

他全国順次公開

配給:キノフィルムズ

© MILITARY WIVES CHOIR FILM LTD 2019

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2022年05月18日 19時00分

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