父とはもう会話さえもできない... 認知症の父と娘を襲う厳しい現実【映画】

2022年02月24日 19時30分

エンタメ anan

人生においてよくあるのは、「あのとき別の道を選んでいたら……」と考えること。ときには苦しくなることもありますが、さまざまな経験から学びながら生きていくのもまた人生の醍醐味でもあります。そこで、今回ご紹介するのは、そんな思いを重ねることができる話題作です。

『選ばなかったみち』


【映画、ときどき私】 vol. 460


ニューヨークに住むメキシコ人移民で作家のレオ。認知症を患ったことで誰かの助けがなければ生活はままならず、娘のモリーやヘルパーとの意思疎通も困難な状況になっていた。


レオを病院に連れ出そうと、モリーがアパートを訪れた朝。レオはモリーが隣にいながらも初恋の女性と出会った故郷メキシコや作家生活に行き詰まり一人旅をしたギリシャを脳内で往来し、モリーとはまったく別の景色を見ていたのだった。そして、レオは夜の街を徘徊することに……。


人気俳優であるハビエル・バルデムとエル・ファニングが父娘役で初共演を果たしたことでも話題の本作。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

サリー・ポッター監督


イギリスを代表する女性監督のひとりとして知られているポッター監督。本作は、若年性認知症と診断された弟の介護を経験した監督自身の思いをもとに描かれています。今回は、介護が抱える問題点や現場の様子などについて、語っていただきました。


―介護している側の目線で描かれる作品が多いなか、本作では患者目線で進んでいくのが興味深いところですが、さらに現実とは別に選ばなかった2つの人生も主人公の頭のなかで並行しています。こういったストーリーを構築するうえで、どのようなことを意識されましたか?


監督 まずは、パラレルな世界を喚起させるような構造にしたいという意図がありました。というのも、映画の場合、Zoomのように複数のスクリーンを並べて見ているわけではないですからね。頭のなかにいる自分からまた違う自分へとどんどん移り変わっていく過程をひとつずつ振り返りながら見せていかなければなりませんでした。


ジグソーパズルのピースが徐々に集まり、最後にひとつになっていくようなイメージというのが、私にとってはガイドラインになっていたと思います。もちろん娘側の視点も出してはいますが、私が一番大事にしていたのは、レオが自分の居る場所をその瞬間にどのように経験しているのか、ということでした。

介護はいまの社会において非常に大きなテーマ


―いっぽうで「介護は特に女性にふりかかる大きな問題」と監督が指摘されているように、女性の多くは娘のモリーに共感してしまう部分が大きいのではないかなと。監督自身も、弟さんの介護を経験されたそうですが、それによって物事に対する見方が変わった部分もあったのではないでしょうか。


監督 介護やケアに関することは、とても興味深い問題だと考えています。実は最近も死期が近づいている知人男性を目の当たりにした際、多くのプロフェッショナルたちが関わっていることに気づかされました。特に心を動かされたのは、普段私たちがあまり触れ合うことのない介護士の素晴らしい生きざま。本当に心が優しくて思いやりがある方々にもかかわらず、彼らのステータスというのはいまだにあまり認められていないところがあるように感じました。


また、一般家庭においては家族から病人が出たり、子どもがいたりすると「女性が面倒を見るべき」という考え方がいまだに根強く残っているところも問題のひとつ。国やそれぞれの家族によって男性がしている場合もありますが、多くの場合はまだまだ女性に任されているのが現実ではないかなと感じています。


―そういった現状は、どうしたら改善していけるとお考えですか?


監督 義務ではないので、あくまでも愛があってしていることであり、弱っている人を助けたいというのは、とても人間的な行為。ただ、ケアをしている本人にも人生や仕事があるので、男女関係なくケアするという行為をみなでわかち合うべきだと考えています。


私が弟の介護をしていたとき、彼が苦しんでいるのを見るのはつらかったですし、自分ができることは何でもしてあげたいと思ういっぽうで、仕事もしなければならなかったのでプロの方に関わっていただきました。そういった葛藤はおそらくみなさんも経験することだと思うので、介護に関する問題は、いまの時代においても非常に大きな社会的テーマだと感じています。

ハビエルとエルはお互いに助け合いながら演じてくれた


―また、本作で多くの映画ファンが注目しているところといえば、ハビエル・バルデムとエル・ファニングの初共演。本当に素晴らしい演技でしたが、現場でのおふたりの様子について教えてください。


監督 ハビエルといえば悪役を演じることでも知られているところがありますし、スペイン人のマッチョな男性みたいなオーラを持っているタイプの俳優だからこそ、今回はいつも演じているものとは真逆のものをさらけ出すような役だったと思います。


そして、それを演じるうえで大きな役割を果たしてくれたのがエル。彼女はまだまだ若いですが、本当に経験豊富だし、人間のもろさみたいなものを表現する役をハビエルよりも多く演じてきているところもありますからね。彼女の素晴らしいスキルのひとつは、完全に役と直結して本当にその瞬間に存在してくれるところですが、彼女がオープンでいてくれたからこそ、ハビエルもそれに反応して演じられたのではないかなと。しっかりと向き合いながら、お互いに助け合っているように見えました。


―では、監督にとっていま仕事のモチベーションとなっているものといえば?


監督 昨今のパンデミックの状態は、フィルムメイカーにとっては非常に奇妙な時期だなと思っています。映画の制作やプレミアがキャンセルになったこともありましたが、そうなって初めて観客に作品を届けることが映画を作るうえでいかに大事なことだったのかを改めて気づかされました。特に、映画館で観られるのか、配信になってしまうのかによっても大きく状況は変わってくるので、コロナ禍が明けても劇場用の映画に対する未来には多くの疑問が残ってしまうのではないかと懸念しています。


ただ、逆にこの機会を受けて、「映画だからできることってなんだろう」と考えるべきではないかなと。こういう状況だからこそ、ただ映画を作るのではなく、観客は何を観たいのか、何を観るべきなのか、といったことを考えるいいチャンスにしたいなと感じています。いまは全世界が危機に陥っていて、誰もがいろいろな選択に迫られているので、自分がどう振る舞い、誰といたいのか、そしてどんな未来を見たいと思っているのかといったことに対する価値についてこのタイミングで考えていきたいですね。

観客にも神秘的な人生を追い求めてほしい


―その通りですね。ちなみに、まもなく公開を迎える日本に対しては、どのような印象をお持ちですか?


監督 まだ2回しか行ったことはありませんが、今回のプロモーションでも来日できていたらよかったなと残念に思っています。日本には本当に興味深い文化があるので、早くまた戻りたいですね。


―お待ちしております! それでは最後に、観客へ向けてメッセージをお願いします。


監督 私は脚本を執筆している最中、この映画を人生の奥深さに迫る作品にしようと考えていました。陰うつで悲劇的なシーンもありますが、ひと筋の光が与えられればいいなと。ぜひ、観客のみなさんには、レオの物語を通して、複雑で神秘的な自分の人生を追い求めてもらえたらと願っています。

押し寄せるさまざまな感情に心が揺れる


誰もが味わったことのある“選ばなかったみち”への後悔と葛藤。心の奥底にしまい込んだ過去の思い出と記憶のなかを旅するレオとともに自分自身の人生を振り返り、これからの“選ぶべきみち”について思いを馳せてみては? 

取材、文・志村昌美

胸を締めつける予告編はこちら!


作品情報

『選ばなかったみち』

2月25日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国公開

配給:ショウゲート


© BRITISH BROADCASTING CORPORATION AND THE BRITISH FILM INSTITUTE AND AP (MOLLY) LTD. 2020

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2022年02月24日 19時30分

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