「はみ出した部分も面白い」山田杏奈を主演に選んだ映画監督が明かす、彼女に惚れた理由

2021年10月21日 19時30分

エンタメ anan

いつの時代も、人を駆り立てるものといえば、誰かを想う気持ち。思い通りにいかないことばかりであるがゆえに、予測不可能なことが起きるものですが、今回ご紹介するのは、ゆがんだ三角関係を描いた傑作恋愛小説を映画化した珠玉の1本です。

『ひらいて』


【映画、ときどき私】 vol. 422


高校3年生の木村愛は、成績もよくてかわいい人気者で、学校でも目立つ存在。そんな愛が密かに片想いをしているのが、同じクラスの西村たとえだった。にぎやかな教室のなかでいつも静かにひっそりと過ごし、どことなく謎めいた姿に愛は恋心を募らせていく。


ところがある日、愛はたとえに“秘密の恋人”がいることを知ってしまう。そして、その相手が病気がちで目立たない同級生の新藤美雪であるとわかったとき、愛は言いようのない悔しさを味わうのだった。爆発しそうな想いは、「好きな人の好きな人を奪えばいい」という想像しないカタチで愛を突き動かすことに……。


2012年に発表されて以来、若い女性たちから絶大な支持を得ている綿矢りさの同名小説をもとにした本作。今回は、原作から多大な影響を受けているというこちらの方にお話をうかがってきました。

首藤凜監督


次世代を担う若手の気鋭監督として注目を集めているのは、現在26歳の首藤監督。「初めて小説を読んだときから、この映画を撮るために生きてきた」と語るほど並々ならぬ思いを込めた本作の魅力や現場の様子などについて、語っていただきました。


―最初に原作を読んだのは17歳のときということですが、どのあたりに心をつかまれたのかお聞かせください。


監督 「好きな人に好かれることが恋愛である」という価値観のなかで生きていたので、人間関係の高次元な形を新しく知り、感銘を受けました。思春期真っ盛りということもありましたが、「今後、自分の人生にもそういうことが起こるかもしれない」という予感とともに惹かれていった感覚です。実際、その数年後には、自分の好きな人の好きな人を観察していた時期もありましたね(笑)。


―まさにご自身の人生ともリンクしていたんですね。愛というキャラクターに関しては人によって意見が分かれると思いますが、監督はいかがでしたか?


監督 私は愛にすごく共鳴していたので、読んでいる人はみんなそうだと思っていたんです。でも、脚本を書き始めてしばらくしたときに、実は愛に共感する人は少ないらしいと知って驚きました。私にとっては本当に大切な小説だったこともあり、他人と語り合うことを避けていたので、わからなかったんです。


その後、男性のプロデューサーと話をしていくなかでもいろいろな気づきがあったので、それまで愛の感情に寄せていたものを少し俯瞰した目線から書くように軌道修正していきました。


―それによって、監督自身の作品に対する見方も変わっていったのでしょうか。


監督 そうですね。あれだけ共感していた愛をイタいと感じることもありました。愛は勉強もできるし、かわいいし、友達もいて人気者なので、一見何が不満なのかわからない。でも、実は他者に人に自分を受け入れてもらうことを知らない女の子なんだと思います。描くうえでは、そういったところも前提にしました。

自分にしか映画にできないと思っていた


―監督自身はこの作品と出会ったことで、どういった影響を受けていると感じていますか?


監督 若い頃は衝動的に自分を傷つけてしまいそうなところがありましたが、この作品によってそういう思いが抑制されていたので、私は救われていたんだろうなと。間違いなく、自分が生きてこられた理由のひとつだと感じています。


―その後、原作者の綿矢さんに直接手紙を書かれたそうですね。どのようなことを書かれたのか教えてください。 


監督 4、5年ほど前のことなので記憶が定かではないですが、根拠もなく、「とにかくこの作品が大好きです。これを映画にできるのは私しかいません」といったことを伝えたと思います。


―それほどストレートな思いをぶつけた綿矢さんに、完成した作品を観てもらうのはかなり緊張されたのではないかなと。


監督 そうですね。ただ、最初の試写で初めてお会いしたとき、「おもしろかった」と言っていただけたのですごくホッとしたのを覚えています。賛否ある映画だとは思いますが、綿矢さんにだけは気に入っていただきたかったので。


事前に脚本を読んでいただいた段階で、「これは心と身体の話になっていますね」と言っていただいたのですが、そこは私が映画にするうえですごく意識していた部分で。それだけに、理解してくださっているんだとわかったときはうれしかったです。


―「自分にしか映画にできない」と話す監督が、自分だから描けたと思うシーンを挙げるとすれば?


監督 こんなことを自分で言うのは非常に恐縮ですが、愛と美雪が初めて関係を持つシーンはよかったんじゃないかなと。なぜか襲ってしまう人と、なぜかそれを受け入れてしまう人という不思議な関係を映し出せたと思います。

自分が見たかったシーンを作れたと感じている


―とても繊細なシーンなので、撮影するうえでは難しさもあったのではないかと。愛役の山田杏奈さんと美雪役の芋生悠さんにはどういった演出をされたのか教えてください。


監督 撮影の最終日に撮ったこともあって、すでにおふたりの関係性もできていましたし、そもそもこういったシーンに対して迷いがあるような方々ではないですからね。私からは動きを指示しただけで、表情などはすべて委ねました。結果的に、私自身が見たかったシーンにできたと思っています。


―今回、愛に山田さんを選んだ決め手はどのあたりでしょうか。


監督 山田さんは自覚的な部分と、そこからはみ出した意識の外の部分、両方が面白い方なので、それが愛にも反映されたらいいかなと。そういうところがこの役を演じてもらううえでは、すごく魅力的でしたね。


―愛を演じるうえでつらさもあったようですが、「女優としてひとつ転機になった」ともおっしゃっています。現場で見た山田さんの女優としてのすごさとは?


監督 脚本を読んだ山田さんは最初に「私は愛のことがよくわかりません」とおっしゃっていたんですが、そのあと公式のコメントを見たら「愛のことが嫌いです」と……。そこまで思っていたとは知らなかったので、あとから聞いたときは驚きましたね。


山田さんのなかで、愛に対する「わからない」という気持ちがどんどん大きくなっていっていましたが、撮影の途中からはそのわからなさを受け入れてくださったように感じました。例えば、愛がたとえの家に行くシーンでのこと。「たとえの父親をじっと見ている」というト書きがあり、私のなかではにらみつけているイメージだったんですが、山田さんは何とも言えない複雑な表情を浮かべていたんです。


おそらく“わけがわからない時間”というのを自分のなかで作り、それを表現していたんだと思いますが、あのときに見せた山田さんの顔は、ただただすごかったです。

演出を超えたレベルで役を演じてくれていた


―また、たとえを演じたHiHi Jetsの作間龍斗さんは、演技経験が少ないとは思えないほど佇まいが非常に印象的でした。


監督 役に入り込むタイプなのか、現場でもずっとたとえくんとしていてくれました。自分の撮影が終わっていても、自ら見学したいと申し出てくださることもあり、うしろのほうで存在感を消して見ていたこともあったほどです。すごいなと感じたのは、「ここはたとえには見せたくない」と思うシーンでは、何も言わなくても帰って行ったこと。直感的にわかってくださっているんだと思いました。


素がたとえに近いのか、それとも作ってくださっていたのかわかりませんが、演出でどうにかなるレベルを超えていたので、その様子を見ることができてうれしかったです。ただ、取材でお会いすると、アイドルの作間さんになっていて、現場のときとは別人みたいなのでうまく話せなくなってしまうことがあるくらい(笑)。改めて現場では、自然な雰囲気でたとえとしていてくださったんだと感じました。


―芋生さんも難しい役どころである美雪を見事に演じていらっしゃっていましたが、役作りに関してはどういったやりとりをされましたか?


監督 好きな人の好きな人という役柄なので、頭のなかでつい自分の憧れる女の子にしてしまいがちで最初は悩んでいたんです。でも、今回は衣装から小物にいたるまで、打ち合わせの段階から芋生さんと相談することができたおかげで、いまの美雪を一緒に作り上げることができたと思っています。

いろいろな思いを受け入れながら観てほしい


―本作では、登場人物たちがひらいていく姿が描かれていますが、監督にとって自分がひらく瞬間といえば? 


監督 やっぱり自分が作ったものを人に見せる瞬間は、裸になるのと同じような感覚なので、それが私にとっては“ひらいた瞬間”と言えるのかなと。別に成長とかできるわけではないんですが。自分のなかでひらくと言われたら、そういうイメージかもしれないです。


―この映画を撮るために映画監督になったということなので、作品が完成したいま、次なるモチベーションは何になるのでしょうか?


監督 それについては、自分でもどうしようかなと思っているところなんです(笑)。現場に入ったときに「自分には引き出しが足りないな」と感じることがあるので、それを増やすためにもいろいろ挑戦したいですね。


あとは、今回の作品にも通じるところですが、女性が女性を想う気持ちはもう少し追求してみたいかなと。年の差のある女性同士や少し年齢が上の女性同士といったテーマについて考えてみたいなと思っているところです。


―本作を楽しみにしている観客に向けてメッセージをお願いします。


監督 人の痛くて恥ずかしいところや嫌な部分もたくさん出てくる作品なので、賛否両論あるかもしれません。複雑な感情になりながらも、観ていただけたらうれしいです。

愛憎入り混じった関係に心が揺れる!


人の数だけカタチが存在するのがおもしろさであり、わからないからこそどこまでも追い求めてしまいたくなるのが恋愛。心をひらいて全力でぶつかり合う不器用な彼女たちの姿には、胸の奥にしまい込んだ感情さえも刺激されてしまうはずです。

取材、文・志村昌美

引き込まれる予告編はこちら!


作品情報

『ひらいて』

10月22日(金) 全国ロードショー

配給:ショウゲート


©綿矢りさ・新潮社/「ひらいて」製作委員会

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2021年10月21日 19時30分

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