まるでBLのお手本!? 「怖い絵」中野京子が教える名画に潜む“官能”

2021年02月06日 19時40分

エンタメ anan

「名画の謎」「怖い絵」シリーズなどで知られる中野京子さんに“官能”をテーマに、2点の絵画を選んでいただきました。描かれる者の美しさのみならず、背景にある物語を知ることで、ますますその色香に魅せられ、目が離せなくなってしまうはず。

2つの名画から浮かび上がる、官能表現の普遍性。


人間が甘味を好むのは、それがエネルギー源であることを体が知っており、快を感じるようにプログラムされているからだという。


では美しい人を好む理由は?


それは自分の子孫を残したいため、との説がある。つまり男女問わず美しい人というのは――時代や文化によって美の基準が異なるとはいえ――概ね、若くて肌がなめらかで目鼻のパーツが整い、肉体に瑕疵がない。言いかえれば、そのような相手との間に生まれる子は健康で生き延びる確率が高く、自分のDNAを末永く伝えてくれる可能性がある。だから多くの人は無意識に美しい人に惹かれ、また美しい人を見ることに快を覚えるのだそうだ。


かなり説得力のある説と思われる。絵画に美男美女があふれているのも無理からぬことだろう。さらには、画面に描かれたそれら美男美女が、単に外見が美しいだけでなく、セクシュアルな魅力にあふれているのも当然ということになる。たとえ絵の中であれ、描く方も観る方も美によって官能を刺激されることが「快」となる。


さて、そうなると画中の美しい人は笑ってはなるまい。微笑みを浮かべて誘うことはあっても、ほがらかな笑いは官能とは相性が悪い。なぜなら(ごく一般的な例で言うのだが)真剣な性の営みのさなかに笑いだされて平気な者はおるまいから。


十九世紀フランスの新古典派ジャン・ブロック作「ヒュアキントスの死」を見よう。ギリシャ神話におけるヒヤシンス(=ヒュアキントス)の花の誕生譚でもあるこの物語は――太陽神アポロンがスパルタ王の息子ヒュアキントスを愛し、片時もそばから離さなかった。ある日、いつものように野原で円盤投げをしていると、二人の仲を嫉妬した西風ゼフュロスが円盤を急旋回させ、ヒュアキントスの頭にぶつけた。嘆くアポロンの腕の中でヒュアキントスは息絶え、彼の血で染まった大地からは赤いヒヤシンスの花が咲いた……。


ブロックは画面のすみずみにまで、抜かりなく小道具をちりばめている。黄昏時の野原。西からの風にひるがえる赤いスカーフ。アポロンは彼のアトリビュート(その人物をあらわす持ち物)たる矢筒を背に負い、死にゆくヒュアキントスを愛しげに抱きしめる。足元には血のにじんだ円盤とヒヤシンスの花。


二人の肉体は少年から青年への移行期にある、まだ男女の性差定かならぬ繊細な美しさと、けぶるような柔らかさに輝いており、ボーイズラブのお手本のごとき完璧さだ。何よりヒュアキントスの表情、それは愛に包まれて死へ向かうというよりむしろ、性愛における没我状態と見紛うばかりだ。もちろん画家はそれを意図している。観る者にそれを喚起させようとしている。一瞬の自己崩壊たる性の恍惚は限りなく死に近いことを、観る者にありありとイメージさせようとしている。そしてもちろんそれに成功している。


もう少し控えめな官能表現もある。イギリスのラファエロ前派に属するダンテ・ゲイブリエル・ロセッティの「ベアタ・ベアトリクス」。名前からわかるように、ロセッティはダンテ研究家の父からこの名を与えられ、自らをダンテに、自分の妻リジーをダンテの永遠の恋人たるベアトリーチェに投影してこの作品を描いた。リジーは病弱で痛み止めに服用していたアヘンチンキ中毒となり、摂取過剰で若くして死んでいる。これは死後に制作されたもの。


リジーの手に赤い鳥がケシ(=ポピー)を運ぶ。アヘンのもととなるこの花のシンボルは夢と死だ。


独特な魅力を放つリジーの顔。だがその表情はヒュアキントスとよく似ている。顎をあげ、目を閉じ、かすかに口を開け、恍惚に身をまかす。ヌードでなくとも十分エロティックだ。こうした官能表現は世界共通だからこそ、絵ばかりでなく映像にも使われ続けているのだ。


ジャン・ブロック作「ヒュアキントスの死」



作者は、ルネサンス期の写実的な表現を追求した「新古典派」の画家、ジャン・ブロック(1771~1850年)。代表作といわれる本作は1801年に発表。フランス西部ポワティエ州のサントクロワ美術館に所蔵。

提供:ALBUM/アフロ


POINT1:性愛の没我状態を彷彿させる表情

POINT2:柔らかく輝く二人の肉体


ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ作「ベアタ・ベアトリクス」



ダンテ・ゲイブリエル・ロセッティ(1828~’82年)はロンドンのイタリア系の家族に生まれる。本作は1864~’70年の間に発表(モデルとなった妻リジーの死後)。イギリス・ロンドンのテート・ギャラリー所蔵。

提供:akg‐images/アフロ


POINT1:恍惚に身をまかせた表情

POINT2:ケシ(=ポピー)の花は夢と死を象徴



中野京子さん 北海道生まれ。作家、ドイツ文学者。西洋の歴史や芸術に造詣が深く、「名画の謎」シリーズ(文藝春秋)、「怖い絵」シリーズ(角川文庫)ほか、多数の書籍の執筆、新聞や雑誌での解説を手掛ける。近著に『運命の絵 なぜ、ままならない』(文藝春秋)が。


※『anan』2021年2月10日号より。


(by anan編集部)

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2021年02月06日 19時40分

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