作家・平野啓一郎がドキドキした“三島由紀夫の小説”とは?

2019年03月29日 20時00分

ビューティー anan

色気とは一体どんなもの? 芥川賞作家の平野啓一郎さんに、色気について語ってもらいました。

もっと混じり合いたいと、こちらを前のめりにさせる何か。



僕の小説の登場人物は、色気があると言われることがあります。そうしようと意識しているわけではなく、必要に応じてそういう雰囲気が出るような書き方もしている程度だと思いますが…。もっとも、小説に描かれているのが、どうでもいい人の恋愛だったらつまらないだろうから、基本的に「このふたりは結ばれてほしいな」と読者が思うくらいの魅力は備えた人物にはしたいですよね。


たとえば、『マチネの終わりに』の天才ギタリスト・蒔野聡史はかなりカッコよく書きました。半面、ちょっと抜けてるところがあるとか、想い人のジャーナリスト・小峰洋子と顔を合わせると冗談ばかり言っているとか、ギャップも持たせました。


ギャップって、こちらが相手と関わっていける「隙」というか、前のめりにさせる何かだと思うんですね。コミュニケーションを重ねる中で、相手の考え方や口グセなどが、自分のそれと混ざり合っていくのが心地よい、もっと溶け合わせたい。そう能動的にさせるものがたぶん「色気」だと思うんです。


僕は、がさがさしゃべる人やオーバーアクションの女性と話すのが苦手で、リアクションが薄いくらいの人が好きなんです。話が通じてなくてリアクションがないのは寂しいけれど、わかってもらいながら「ああ、そうね」くらいにうっすら反応してもらうのがいい(笑)。


あんまりぐいぐい来られて、こちらが受け身にならざるを得ないような感じは疲れるでしょう。そういう意味では、多少余白というか、こちらが積極的に埋めるべき余白があるぐらいの距離感で感じ取るものが、色気と呼べるものかもしれません。


たとえば、過去のありそうな人物がミステリアスで色っぽく見えることがあるのは、余白があるからかもしれません。『ある男』はそういう知られざる部分を埋めていく話で、死んだ夫が別人だったと知った妻から相談を受けた弁護士が、夫の過去を調べていくんです。ただ、深刻すぎる過去は受け止めるのは大変だし、色気とは言えないでしょうね。完全に相手が自己完結してても関係としては難しい。


実は小説を読むこともそれとよく似ていて、みんな、そこに描かれていることを、自分の体験や感覚で穴埋めをしながら読んでいるんだと思うんですね。三島由紀夫の小説に『美徳のよろめき』というのがあって、発表当時すごく話題になったんです。セクシュアルな場面も出てくるんですが、あまり細かく露骨な描写があると、読者って引いてしまうんですよ。この作品でも、初めて節子という人妻と土屋という青年が関係を持つ場面とか、ふたりはすごく昂揚しているんだけれど、婉曲に書いてある。自分自身の経験を足してその穴埋めをしなければよくわからないくらいに。その分、読んだ人自身の羞恥心に触れるというか、作者に押し付けられたものではないからドキドキする。つまり、こちらが能動的になるためには、モノでも人でも、多少相手は抑制的な方がいいように思うんです。


要するに色気って、おいそれとオープンにできない自分の奥底にあるものを引っ張り出し合う関係にしか生まれない。この人になら開示してもいい、開示できそうだという予感を抱かせてくれるかどうかが重要なんじゃないですかね。


僕の経験では、すっきり理知的に話す人は色気があると思うんですが、それはやっぱり知的な人やいろいろ経験している人の方が自分のことも理解してもらえるかもしれないと期待が持てるからでしょうね。自分の思いや悩みを話したときに、静かに受け入れてもらえそうだという安心感ってスマートでしょう。立ち居ふるまいにもそれはにじみ出てくると思います。


ひらの・けいいちろう 作家。1975年生まれ、愛知県出身。京都大学卒。在学中に文芸誌に掲載された処女作「日蝕」で芥川賞を受賞。『決壊』で芸術選奨文部科学大臣新人賞、『ある男』で読売文学賞など、受賞歴多数。


※『anan』2019年4月3日号より。イラスト・カーリィ 取材、文・三浦天紗子


(by anan編集部)

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2019年03月29日 20時00分

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