令和に振り返る「平成バブルから生まれた恋愛観」

2019年05月09日 17時10分

恋愛 マイナビウーマン

1983年生まれの私にとって、初めて覚えた言葉はバブル景気の中で発された言葉であり、幼稚園の卒園アルバムに書いた将来の夢はバブルの最中に描いた夢だった。

別に幼稚園児が海外でジャパンマネーの威力を実感したり、不動産投資でひと財産築いたりするわけもないし、肩パッドや前髪を盛ってディスコで踊り狂い、男性から車をプレゼントされるようなことはないので、バブルの恩恵なんてほとんど受けていないけど、その時代の空気の中で物心をつけたことはそれなりに大きいことだった。

私にとって大人になるとは、すなわち豪華で豊かになることだった。小学1年生で読みはじめた漫画雑誌の『りぼん』にもバブリーな格好をした年上のお姉さんが出てくるし、テレビで放映されるドラマでは20代のW浅野が豪華なマンションで高い服を着ている。少年ギャグ漫画の主人公はお召し列車に乗っていた。

小学校に上がるか上がらないかくらいだった私が着ていたのは大型スーパーの衣料品フロアで買った上下だったけど、大人になったら好きなブティックで買った毎日ちがう服を着て、オープンカーに乗ったり、ワイワイとスキーに行ったりするものだと思っていた。

そして恋愛とは、男性が女性を高級レストランに連れて行ったり、女性を落とすために外車を買ったりすることだったし、女性が豪華な装いで男性を惑わしたり、より高価なプレゼントを引き出したり、興味のない男性は便利な足として使ったりすることだった。

男性があの手この手で女性を誘い、女性は差し伸べられる手の中からお眼鏡にかなうゴージャスな男性を選ぶ。お眼鏡にかなわない相手は適当に弄んで、自分のためにがんばって尽くしてもらう。よりゴージャスな男性をゲットするか、より多くのどうでもいい男性を弄ぶことで、ほしいものが全部手に入るのだと思っていた。

正確に言うとバブル崩壊がはじまったとき、私はまだ小学2年生だったので、恋心を抱くようになったのは景気後退がはじまってからなのだけど、株価が暴落して好景気が急ブレーキをかけても、実際のファッションや文化はゴージャスで派手な雰囲気を引きずっていた。

もともと実体経済の成長以上に膨れ上がった泡がある意味幻想のようなものだったわけで、泡が弾けて消えても、幻想が打ち砕かれるにはまだ時間がかかるようだった。バブルの象徴のように思い出されるジュリアナ東京が、実際はバブル経済崩壊直後にオープンしたというのは有名な話だし、TKプロデュースの派手な楽曲もアムラーブームも、バブルが弾けてだいぶ時間が経ってから社会を席巻した。

そんな、資産価値が暴落していく中で、ゴージャスな装いが色濃く残っていた時代、子どもたちのごっこ遊びでも、「バブルが弾けた」「破産した」なんていう覚えたての言葉が飛び交うようになるのだが、女の子たちが演じるのはまだ高飛車で男性によって贅沢をしたがる女性たちの姿だった。

覚えているのは、小学3年生のときの校外レクリエーションで、閉店した洋品店の前をたまたま通りかかった際に、私が親しかったクラスの男子が「バブルがはじけてお店が潰れたんだよ」と言って、そこの店主になりきってままごとのような寸劇をはじめたときのこと。

妻役のつもりの私が「シャネルの香水の買いすぎでお金がないわ、もう離婚よ」とかいうセリフを言って、娘役の友人は「知らなーい。さてお化粧お化粧」なんて言って頬に白粉を叩くふりをした。店主の男子は「もうこの家も住めないから夜逃げするぞ」と言うが、私は「離婚するから私は行かない」、娘役は「引っ越しするなら銀座に住んで三越の息子と結婚する」なんて食いちがうおかしな会話をしたのだった。

男子は、なんとなくニュースや大人たちの言葉から聞き取った景気後退の足音を、覚えたての慣用句とともに披露したかっただけかもしれないけれど、女子たちの目に映っていたのは、豊かな男性たちが見せるだけ見せてきた、薄っぺらい甘美な夢の残り香だった。落ち込む男性たちの気分的な暗さに比べて、女性たちがまだまだ飽き足らない、と華やかに生きようとするそのあとの時代が、なんとなく端的に表れているようで、忘れられない1コマでもある。

思えば、あのあたりから、稼ぎまくって狩りをするようにいい女性を探していた男性の時代から、元気のない男性を尻目に楽しんで盛り上がる女性の時代に移り変わりはじめていたのかもしれない。

そのあと、思春期になって成人して仕事をするようになって周囲の結婚式も増え、私たちが生きる現実は、物心ついたときに初めて見かけたトレンディドラマや漫画の中のそれとは随分ちがうものになった。

でも、ギャルブームに続いてキャバ嬢ブームや『CanCam』OLブーム、女子会にインスタやインフルエンサーが台頭する現在に至るまで、若者の話題は常に女性がリードしてきた。正攻法では入手するのが難しくなった豪華なブランド品や高級ホテルも、援助交際、水商売にパパ活など、たくましい方法で手に入れて、バブル期の主役に変わってしっかり主役を張っている。

それでも、平成が終わり令和になった今でも私たちがときどき、なんとなく乙女心丸出しで、デートでは男性にリードしてほしいとか、最初は男性から誘ってほしいとか思うのは、物心ついたころに吸った空気の中で、そのころはまだまだ主役だった私たちに豪華な夢を見せてくれるはずの男性たちに対する憧れが、どこかに残っているからなのかもしれないな、と思う。

(鈴木涼美)

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2019年05月09日 17時10分

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