不安は乗り越えられる!...今こそ大切「未来を左右するおうち時間の過ごし方」#32

2020年04月11日 20時40分

ライフスタイル anan

非常事態宣言のなか、庭のウグイスはひたむきに鳴き続けた結果、少しずつ美しい鳴き声を奏でられるようになりました。一方耳や目にする新型コロナウイルス情報で、心穏やかであることは難しいです。信頼できる情報を定め、優しさや思いやりを保つにはどうしたら良いのでしょう。ビル・ゲイツ氏や『サピエンス全史』のユヴァル・ハラリ氏を始めとする世界の有識者たちは事態をどう捉え、今私たちに何ができるというのでしょうか。彼らはこのウイルスに立ち向かうためには、自分を守ることと同じかそれ以上に、他の人にうつさず、他の人を守ること。一致団結することが大切だと言います。では明日の不安を抱えながら、信頼しあって協力出来るような心をどう育んでいけばいいのでしょうか。今回は彼らの意見のまとめと、世界的スピリチュアルリーダーたちが強調する「今に在る」という心、全ては変化し続けるという不変の真理についてご紹介します。

文・土居彩


【マック・マインドフルネス時代の瞑想探し。「魂ナビ」が欲しい!】vol. 32



ビル・ゲイツ氏は自身のブログ「ゲイツの覚え書き(Gates Notes)」で、新型コロナウイルス対策として、アメリカの政治指導者たちがとるべき3つのステップを提案しました(1)。簡単にまとめると以下です。日本だったら、とみなさんはどう思われますか?



1. 全国的な封鎖措置

一貫して全国封鎖しなければ州をまたいだ移動が出来るために、感染を完全に防止することはできない。その期間はアメリカだと、全土で感染者が減少し始めるまで(10週間程度〜)。


2. 感染テストの強化

検査を増やして、医療従事者、症状の強い人、潜在的リスクの高い人の順に実施。検査による感染拡大を防止するため、自分でサンプルを採取できる検査キット(self-swab)などを利用する。ちなみにニューヨーク州はテスト量を1日あたり25,000超に拡大(4/2執筆時時点)。


3. 治療法とワクチンの噂やパニック買いを煽らない

治療法やワクチンの開発はデータに基づいて行う。また政治指導者は薬のパニック買いを控えさせること。アメリカではヒドロキシクロロキンという薬が、新型コロナの緊急治療薬として承認される前に買い占められてしまい、必要な別の病気の患者の手に行き渡らなくなる事態が起きた。私たちが正しく対処すれば、見込み18か月先よりも早くワクチンが手に入る可能性もある。またワクチンが供給されるまで、家々が密集するインドのスラム街やサハラ以南のアフリカで暮らす人々はより大きなリスクに晒されていることを忘れてはいけない。



ゲイツ氏は、今なにを決断するかが新型コロナウイルスの成り行きを左右すると、適切なステップを提案しました。コロナの嵐が去った数年先にも今決断したことがその後の私たちの未来になるというのがベストセラー本『サピエンス全史』のユヴァル・ノア・ハラリ氏です。個人情報の開示やそれを政府がどう取り扱うか、多国間との協働の有無など、私たちが今決めたことが未来を定めると言います。彼が寄稿したFinancial Timesの記事は大変読み応えがあり、日本語訳も出ているのでぜひ全文を読んでいただきたいです(2)。


ハラリ氏は、この事態は世界規模で協力し合わないといけないと強調しています。ケンカし合っていた国もこれを機に協力し合って、体験して学んだことを情報提供する。そして他の国からの助言を謙虚に求めるべきと。また感染例の少ない豊かな国は感染者が多発する貧しい国に機器や物資を進んで送ること。これは人道的な意味だけではなく、経済やサプライチェーンがグローバル化する今、経済的にも重要なことなのだとか。


ノーベル賞受賞者の山中伸弥教授もYOSHIKIさんとのYouTube対談のなかで、私たちが諸外国と共通の敵であるコロナをきっかけにいかに協働できるかも対策の鍵を握るとお話されています。そこではスペイン風邪から100年経った今、新型ウイルスに人類の賢明さを試されているのではと(3)。有識者たちは口を揃えてこの未曾有の出来事の解決には、「私」や「私の国」という、「私」という垣根を超えた、より大きな視点が必要になると助言します。そうでなければ、取り返しのつかない悲劇になると。


明日の生活、私、家族、会社を守ることすらままならない瀬戸際で、経済的な損失や、健康情報などを政府に開示すること、ときに自国第一ではなく他国を優先するという選択は痛みを伴います。心が縮こまって、買い占めたい欲求も起こります。けれどもやはり私たちは世界の有識者たちが口を揃えるように、社会をパニックにしないために、垣根を超えて団結していく必要があります。


でも家にこもって目にするのは不安になる情報がいっぱい。そんななかで一致団結の心をどう育めばいいのでしょう。全体の公益が求めるなかで、とはいえ個人のそれが踏みにじられてはいけません。他の人への思いやりと柔らかい心をどうやったら両立できるでしょうか。そこでは物事の本質を深く見る、マインドフルネスの実践が大きく役立ちます。これは、すべての存在がお互いにつながり合っているそして変わらないものは何もないという真理を実感させてくれるものです。



セールスフォース・ドットコムCEOのマーク・ベニオフ氏は、YOSHIKIさんと山中教授が出会ったきっかけを作った人物です。マーク氏は熱心な瞑想の実践者であり、欧米を中心にマインドフルネスを広めるティク・ナット・ハン師(タイ)についてその学びを深めてきました。私はタイのもとで出家奉公するシスター・チャイに紹介してもらい、彼に『BRUTUS』誌で一度「ビジネスの世界で慈悲の心を広げるとは」をテーマにコメントをいただいたこともあります。


タイは自分を知り、生きる強さを育むためには、マインドフルネスの実践が不可欠だとしました。それは「今ここに在る」ことです。言い換えれば、最悪の状況の中の自分も直視すること。私が初めてそれを彼に学んだのは2012年のゴールデンウィーク、韓国の観音信仰の聖地 百潭寺(ペクダムサ)で開かれた彼のマインドフルネス合宿に600人の韓国人参加者たちと参加したときでした。


それは日本では東日本大震災、そして個人的には離婚した翌年のことでした。拠りどころのない心を大丈夫だと言い聞かせながら、「本当は不安で辛い」と感じていました。でも一度それに耳を傾けてしまうと後には引き返せなくなりそうで、毎日を忙しくすることでやり過ごしていました。



でも600人規模の合宿の中では、外部の刺激が閉ざされ、自分の内側に向かわざるを得なくなりました。食べるときは黙って食べることだけに集中する。山道では大地を踏みしめながらみんなで歩く瞑想をし、森の中でブラザー(僧侶)とシスター(尼僧)が奏でる「G線上のアリア」に耳を傾ける。輪になって今の自分の思いを話し合う。聞く人は心を込めて耳を傾け、それに対して意見や判断は助言はせず、ただ安全に話せる場所を作ることに集中する。そしてタイの法話をみんなで聞いて坐禅。


メールも電話も無し。無駄な私語も無し。自分でも驚くほど、ずっと泣いていた5日間でした。このときに私は初めて、見たくない本音を受け止めました。それは他の人への怒りと、自分自身への怒りでした。マインドフルネスで見てこなかったことが浮き彫りになって、その暗闇から救ってくれたのはタイが教えてくれた空(くう)という考えでした。彼はその難解で堅苦しいイメージの仏教の考えを、私たちになじみやすく、詩的に美しく説明されました。


「美しい海があって、その水が雲になります。その雲が雨になって、木になります。木は紙になって、そして本になり、詩や物語になります。ですから、詩や物語は海であり、それが書かれた紙に私は雲を見ます。空は詩であり、詩は空なのです。私たちは全てこのように、私たち以外のものからできています。ですからあなたがご自分のことを愛せない、憎むというのなら、あなたは空や虹や鳥、そして私や仏のことを憎むということです。他の誰かを憎むというのも、あなた自身を憎むということです」。



あるとき別の機会にジャーナリストが、キャベツ畑で精を出していたタイに「畑仕事をする時間を使って、詩や作品をもっと生み出されたほうが有効ではありませんか? それがあなたの天命なのではありませんか?」と言ったそうです。それに対してタイは、「キャベツを育てなければ、私は詩を完成させることができません」とお答えになったそうです。


私たちが頭の中で「海」「雨」「キャベツ」「詩」「あなた」「私」と区別して、優劣をつけているあらゆる存在とは自分が捉えた解釈の産物にすぎない。その真の姿とは無常であり、相互に存在し合うもの、そこに隔たりは無い。今ここに心を傾けて、肉体感覚を通じたライブ体験をしていくことで、自分の(世間の、他人の)物差しを超えて、このように物事をあるがままに認識する練習をしようというのが、このマインドフルネス合宿でした。


彼自身もマインドフルネスに救われた一人です。タイはベトナム戦争を止めようと僧侶として平和社会活動をしてきましたが、仲間たちは投獄されたり、殺されたり、プロテストの一環として焼身自殺したり。大変心を痛めた彼は重度のうつ病を患います。世界中の名医たちの尽力も及びません。最終的に彼は足裏の感覚に集中し、一歩一歩大地を「今」「ここ」「今」「ここ」と踏みしめ続けることで、うつ病を完治させました。平和のための行進とは、平和な心で歩くことでのみ始まる。変容を起こすのは何をするかではなく、どう在るかなのだと、彼はマインドフルネスをたくさんの人と実践しようと決めたのです。



精神世界の世界的指導者たちも同様に、例えばラムダスはBE HERE NOW (今ここ)、エックハルト・トールはThe Power of Now (今この瞬間の力)を強調します。


長年重度のうつ病で苦しんだエックハルト・トールは、「ただ在る」という感覚に至り、深い喜びの状態を体験しました。鬱とは心の怒りが自分に向かった状態です。私たちの意識を過去や未来ではなく、今ここに向ける。存在や生きていることに意味や目的を見出そうとせず、無理に前向きになろうともせず、ただ在るという感覚のみを感じる。そこから「私」と「私以外」という区別性からの解放や癒しが始まると世界的なスピリチュアルリーダーたちは強調します。



緊急事態宣言によって、外出は最小限にとどめられています。そこでは我慢も痛みも伴います。封じ込めていた恐れや怒りも浮上してくるでしょう。私も不安です。けれどもそれは待ったり許したりしながら普段の境界線を広げて、すべては変化の中にあることを体験するという大いなる授業だとも言えます。


スティーブ・ジョブズの愛読書『禅マインド ビギナーズ・マインド』の言葉は、国境の壁を超えてアメリカに日本の禅の教えを広めた鈴木俊隆老師という人のものです。彼は太平戦争を体験し、妻は寺に出入りされた人に滅多刺しにされて殺されたりと数奇で不条理な運命を辿った人でもありますが、「問題を考察するに当たっては、自分自身をもその中に含めなければならない」(5)と言います。嵐の中に身を置いて、現実をありのままに直視する。その中で自分にとって栄養になることは何か。今の自分で何か役に立てられることがあるか。どんな未来を創造したいのか。それに今必要なことは何か。私たちはやはり一人では生きていけません。家で過ごすこの機会を、そんな内観の時間にしてみませんか。全ては変化し続けるという不変の真理の中で、私たちは何度でもやり直せます。そして私たち一人ひとりの決断が、未来を作ります。



土居彩


編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)、芸術家で社会活動家の小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。


参考

1. https://www.gatesnotes.com/Health/What-our-leaders-can-do-now

2. http://web.kawade.co.jp/bungei/3473/

3. https://www.youtube.com/watch?v=yckQnJp9fp8

4. Thich Nhat Hanh 『Understanding Our Mind』(Parallax Press)

5. ディヴィッド・チャドウィック著・浅岡定義訳・藤田一照監訳『まがったキュウリ 鈴木俊隆の障害と禅の教え』(サンガ)

NHKラジオ「宗教の時間 疫病が世を覆った時代に」https://www4.nhk.or.jp/syukyo-jikan/27/


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