彼を信じられる? 映画『パラサイト』にもある「胡散臭さ」の嗅ぎ分け方#25

2020年02月20日 18時30分

ライフスタイル anan

字幕作品として初のオスカーを受賞した映画『パラサイト』。ストーリーの鍵を握るのがニオイですが、たしかに鼻が効くことはときとして頭で考えるよりも、怪しさを察知できる有能な警報機になります。その能力は遺伝子や文化によって左右されますが、訓練で高めることだってできます。目や耳よりも記憶を呼び覚ます力が高いとされる鼻のチカラ。「あの人を信じてもいいの?」「どちらを選ぶべき?」。そんなときにも無意識の領域に繋がって、最善の解決策をそっと教えてくれる嗅覚、そのパワフルで神秘的なパワーをご紹介します。

取材、文・土居彩 看板写真・Yumiko Sushitani


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とらえどころのない怪しさを察知する、ニオイの力。


「臭うなぁ……」。はっきりした証拠はないけどなんかうさん臭い、いやな予感。そんなふうに鼻が効くことは往々にして、牛乳のニオイを腐っていないかチェックしたり、フェロモンを嗅ぎ分け最適なパートナーを見抜いたりと身を守る術になります。


話題の映画『パラサイト』でも(登場人物たちのセリフが英語ではない作品として初オスカーを受賞した、あの韓国映画です!)ハラハラドキドキ大どんでん返しのストーリーの鍵を握るのが“ニオイ”。貧乏一家がお金持ち一家に巧みに寄生していくストーリーで、貧富の世界を分けるのがこのニオイです。どんなに見た目や振る舞いを取り繕っても、靴下が万年干しされるようなカビ臭い半地下の家で暮らす貧乏一家には、ぬぐいきれない臭いが漂うというのです。



日本、韓国にとどまらず、うさん臭さをニオイで表すのは英語圏もそう。例えば“smell(ニオイ)”という英単語を使い、きなくさいことをsmells fishy (直訳:魚クサイ)と言います。そういえばアメリカ人の友人が畳の部屋に入ったとたん「fishy(魚っぽい臭いがするなぁ)」と言って、ビックリしたことがありました。私たちには当たり前のイグサの香りも、彼らにとっては少し東洋的でなじみのないものに感じられるのでしょう。



匂う、匂わない、クサイ、いい香り、とニオイ分子を嗅ぎ分けるのは、1000以上ある嗅覚受容体という場所です。空気中に漂うニオイ分子が私たちの鼻の一番奥、脳に近いところにある嗅覚受容体に受けとめられ、その情報が脳に処理されることで私たちはニオイを感じることができます。ところで嗅覚受容体のうち、実際に機能しているのは400程度。これには個人差があり、ちゃんと働いている嗅覚受容体が多いほどたくさんのニオイを感知することができます(1)。


生まれつきニオイを感じるスペックが高いのは誰?


ところで研究によりアフリカ人は、非アフリカ人よりも機能する嗅覚受容体が多いと知られています(2)。映画『パラサイト』では最初に貧乏家族特有のニオイに気づいたのが、芸術的センスがあってADHD気味のお金持ちの息子です。実は家族であることを隠して、お金持ち一家に潜り込んだ貧乏一家の父、母、息子、娘を「同じニオイがする!」と見破るのです。


確かにADHDの子どもたちのほうがニオイを検知できるというのも知られたところ(3)。ADHDは脳内のドーパミンという神経伝達物質が低下していることが原因のひとつだとされますが、MPH(塩酸メチルフェ二デート)という薬物を内服することで、ドーパミン濃度を上昇させる治療があります。この治療を受けたADHDの子どもたちから高いニオイの感度が無くなってしまったことから、ニオイの感知にはドーパミンが関係しているのではとも考えられています(3)。


では男性女性では、どちらのほうがニオイに敏感だと思いますか? やはり直感型の女性? ドラマでも夫の浮気に勘づく妻がそのスーツから香水のニオイを嗅ぎ分けるなんていうシーンを見ますよね。ところがこれは研究によって女性が優勢だったり、他の研究では男性だったりと、はっきりとした男女差は無いようです。



ニオイの好みを左右する遺伝子。


ニオイの好みではドリアンやくさやなど、好き嫌いが強烈に分かれる食べ物がありますね。香りの好き嫌いはこのような食べ物のように文化も左右しますが、遺伝子型によっても変わります。例えば、ある遺伝子型(RT/RT)の人が「ものすっごい臭い!」「吐きそう」と感じたニオイでも、別の遺伝子型(RT/WM)にとっては「バニラの香り♡」と感じられるなんていうことも(4)。


ある人にとって惹きつけられる匂いでも、ある人には汗臭い悪臭でしかない。これはパートナー選びにも関係します。例えばスイス人の生物学者が行ったTシャツ研究では、男性たちが2日間着続けたTシャツを同じ見た目の箱に入れて、女性たちにどの匂いが好きかを実験しました。すると女性たちは、免疫系を司るMHCという遺伝子群があるのですが、自分と違うMHCを持つ男性が着ていたTシャツの香りを好んだそうです(5)。



「お父さん、クサ〜イ!」は理にかなっていて、自分の遺伝子を確実に残すために生まれてくる子どもが病気にならない可能性が増す、最も遺伝子の遠い異なる免疫系を持つパートナーを無意識に選ぶようにできているのですね。


鼻のチカラを高めるには、嗅ぎ続けよ!


怪しい人間を察知したり、最適なパートナーを嗅ぎ分ける鼻のチカラ、嗅覚。これをスキルアップする方法があります。ところで人間が嗅ぎ分けられるニオイはだいたい3000種類。一方でソムリエや調香師など特別な訓練を受けた人は1万種類もの香りを識別できるようになるそうです(6)。


例えばパーキンソン病などで失われた嗅覚機能を回復させるために、繰り返し4種類程度のニオイを何度も嗅がせるというリハビリを行います。1日2回、12〜18週間にわたって行いますが、この訓練は9歳から15歳の健康体の子どもたちにも効果があったそうです(7)。単に3.5分間、特定の香りを嗅がせることで、その識別力が上がったという研究もあります(8)。つまり何度も特定の香りを意識的に嗅ぎ続けることでそのニオイに対する感度を高めることができるのです。



私たちが考える以上に、警報装置としての高いスペックを持つ鼻のチカラ。香りは、見たり聞いたものよりも記憶を呼び覚ます効果も高いとか(9)。「あの人を信じてもいいの?」「どちらを選ぶべき?」。そんな風に悩んだときは一度思考を止めて、鼻を効かせてみてはいかがでしょう。無意識の領域につながり、一番重要な解決法を見つけ出してくれるかもしれませんよ。



土居彩


編集者。東京の薪割り暮らしを綴るブログ『東京マキワリ日記、ときどき山伏つき。』。株式会社マガジンハウスに14年間勤め、anan編集部、Hanako編集部にて編集者として、広告部ではファッション誌Ginzaのマーケティング&広告営業を務める。’15年8月〜’17年5月、カリフォルニア大学バークレー校心理学部にてダチャー・ケトナー博士の研究室で学ぶ。’18年9月〜’19年1月、7月、ニュー・メキシコ州サンタフェにあるウパヤ禅センターに暮らしながら、ジョアン・ハリファックス師に師事。現在は、書道家・平和活動家、禅研究家の棚橋一晃氏の著書『Painting Peace(平和を描く)』(シャンバラ社)、芸術家で社会活動家の小田まゆみ氏の『Sarasvati’s Gift』(シャンバラ社)を翻訳中。


参考:

1. Majid, Asifa., Speed, Laura., Croijimans, Llja., and Arshamian, Artin .(2017). What Makes a Better Smeller? Perception 2017, Vol.46 (3-40 406-430. DOI: 10.1177/0301006616688224

2. Hoover, K. C., Gokcumen, O., Qureshy, Z., Bruguera, E., Savangsuksa, A., Cobb, M., . . . Matsunami, H. (2015). Global survey of variation in a human olfactory receptor gene reveals signatures of non-neutral evolution. Chemical Senses, 40, 481–488.

3. Romanos, M., Renner, T. J., Schecklmann, M., Hummel, B., Roos, M., von Mering, C., . . . Gerlach, M. (2008). Improved odor sensitivity in attention-deficit/hyperactivity disorder. Biological Psychiatry, 64, 938–940.

4. Keller, A., Zhuang, H., Chi, Q., Vosshall, L. B., & Matsunami, H. (2007). Genetic variation in a human odorant receptor alters odour perception. Nature, 449, 468–472.

5. Wedekind C, Füri S (1995). Body odour preferences in men and women: do they aim for specific MHC combinations or simply heterozygosity? Proc R Soc Lond B1997; 264: 1471–1479

6. https://www.youtube.com/watch?v=3KKguTpkPog

7. Mori, E., Petters, W., Valder, C., & Hummel, T. (2015). Exposure to odours improves olfactory function in healthy children. Rhinology, 53, 221–226.

8. Li, W., Luxenberg, E., & Parrish, T. (2006). Learning to smell the roses: Experience-dependent neural plasticity in human piriform and orbitofrontal cortices. Neuron, 52, 1097–1108.

9. Zellner, Debra A. (2005) “Color Enhances Orthonasal Olfactory Intensity and Reduces Retronasal Olfactory Intensity.” Chemical Senses, Volume 30, Issue 8, October 2005, P.643–649, doi:10.1093/chemse/bji057




©BJI / Blue Jean Images/Gettyimages


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