cover interview 多部未華子

2020年11月07日 08時00分

エンタメ michill

cover interview 多部未華子


EXILEや、J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEなどに数多くの詞を提供してきた作詞家・小竹正人の小説『空に住む』を青山真治監督が実写映画化。両親の急死後にタワーマンションで暮らし始めた出版社勤務の主人公・直実が、国民的スター俳優・時戸森則との逢瀬に溺れ、揺れ動く姿を描いている。現実と夢の狭間で葛藤しながらも新しい人生を選択するために彼女が下した決断とは? 主演の多部未華子さんにお話しを伺った。



Profile



1989年生まれ。2002年に女優デビュー。2005年、映画『HINOKIO』と『青空のゆくえ』で第48回ブルーリボン賞新人賞を受賞するなど、10代から存在感のある演技で幅広く活躍し、2009年には連続テレビ小説「つばさ」のヒロインに抜擢。ドラマ『これは経費で落ちません!』『私の家政夫ナギサさん』や、映画『君に届け』『ピース オブ ケイク』など数多くの作品に出演。



誰かの心の片隅にちょっとでもひっかかる作品になっていたら嬉しいです



「すごく難しい役でした」



直実という役を振り返ってそう話し始めてくれた多部未華子さん。



両親の急死という出来事を受け入れられないまま、叔父夫婦の計らいで大都会を見下ろすタワーマンションの高層階に住むことになった28歳の直実。家には相棒の黒猫ハルがいて、職場である小さな出版社には気心の知れた仲間がいるものの、ポッカリと開いた心の穴は埋まることはない。スター俳優と夢のような出会いをし、恋に落ちるもののいまいち現実味が湧かず、直実は感情を上手くコントロールできない自分への焦燥感を募らせていくという役どころだ。



「仕事、人生、愛の狭間で揺れ続ける直実は、両親からも雲みたいと言われるようなつかみどころのない子。最初は全く共感できず、正直よくわかりませんでした。直実に限らず、この作品に登場する女性はみんな言うことが哲学っぽいので難しかったです」



そう多部さんが話す女性とは、美村里江さんが演じる叔母の明日子と、岸井ゆきのさん演じる同僚の愛子のこと。明日子は何不自由なく暮らすも、どこか虚無感を感じていて何かと直実の世話を焼き、愛子のお腹の子にはワケアリの事情が…。





「脚本を読んだ時に明日子と話している直実の言葉も、愛子を励ます直実の言葉も、それが本心から出た言葉なのか、それとも共感しているフリをして言っているだけなのかがわからなかったんです。でも途中から100%理解しなくてもいいんだと思えるようになったというか、自分でそう解釈したら気持ちが楽になって。それから撮影を楽しめるようになりましたし、出来上がった作品を見た時には、それぞれに共感できるとまではいかなくても『こういう人もいるな』って思えるようになったというか、意外と多いんだろうなと思いました」



実際、仕事や結婚、出産、親の介護など。20〜30歳女性は、向き合わなければいけない人生のターニングポイントが迫ってくる。突然襲ってくる寂しさや不安に心が押しつぶされそうになりながらも、なんとか頑張って生きている人も多いのではないのだろうか。多部さんにはそのような経験は…とお伺いしようとしたところ「あまりないですね」とあっけらかんと答えが返ってきた。



「私は自分がやりたいと思ったことは是が非でもやりたいけれど、それ以外はあまりこだわりがないんです。人間関係も自分が窮屈に思えるような人だったら自分の人生に置かないというか、心のシャッターを降ろしてしまうので、人間関係に悩むこともあまりありません。とてもはっきりした性格だと思います。子供の頃から、『出来ないものは出来ない、あなたと私の人生は違うから期待しないでね』と、両親にも伝えていましたから(笑)。きっと自分が自分にあまり期待していないのだと思います。もちろん、出来る限りのことはしっかりやります。でも“どうしてもっと出来ないんだろう”と悩むことはありません」





自分の意見にブレがなく、スパッと答えてくれる多部さん。劇中の直実は岩田剛典さん演じるスター俳優の時戸森則とエレベーターで遭遇し、そのまま恋に落ちるのだが、もし多部さんなら…と聞きかけたところで、「絶対ないです!」と大笑い。



「あ、でもどうなんだろう。やっぱりあんな誘い方されたら行っちゃうのかな…。行くと答える人が多いのかも知れませんね。でも私は昔から好みのタイプが飲み会の端でひとり静かに座っていて、まったく話さないんだけど、たまにみんなの会話を聞いてフッと笑うような人なんです。“え、ちゃんと会話聞いてたんだ!”というような人(笑)。盛り上げ役のような人は選ばないですね」



多部さんの癒しの存在を聞くと「犬です」と即答が。直実に黒猫のハルという大きな存在があるように、多部さんにとって愛犬はなくてはならない存在だそう。



「一緒に暮らして8年目になります。癒しはこの子にしか求めてないってくらい本当に癒されますね。すべてを捧げるといったら大袈裟ですけど、この子には私がいなきゃダメだって思ってますし、生涯守るからね!という気持ちでいます。猫や犬に限らず命あるものは本当に偉大です」



撮影中は愛子役の岸井ゆきのさんとのシーンが楽しかったそう。



「脚本を読んだ段階で、愛子と直実のふたりが作り出す空気感が好きだったんです。なのでそのシーンがたくさんあったのは楽しかったです。しかもお相手が前々からとても気になっていた女優の岸井さんだったので、なおさら楽しくて。現場では何を話したかを思い出せないくらい、たわいもない会話をずっとしていた気がします。この作品はココが面白いですよ!とも伝えづらいし、成長物語というわけでもない。でも登場する女性たちの姿に、ちょっとでも何かがひっかかって、心の片隅に残ってくれる作品になれば嬉しいです」



「空に住む」




(C)2020 HIGH BROW CINEMA

監督・脚本/青山真治 脚本/池田千尋

出演/多部未華子、岸井ゆきの、美村里江/岩田剛典、鶴見辰吾/岩下尚史、髙橋洋/大森南朋、永瀬正敏、柄本明 他

公開/公開中



PHOTO / Hirohiko Eguchi (Linx.)

STYLING / Haruki Okamura

HAIR & MAKE / Hitomi Mitsuno

TEXT / Satoko Nemoto



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