「女性や子どもへの暴力を断ち切るために」韓国の異才が映画に込めた思い

2022年06月16日 19時00分

エンタメ anan

K-POPから韓流ドラマまで、いまや全世界から注目を集めている韓国のエンターテインメント。そこで、力強い作品が次々と誕生する韓国映画界から、“非凡な映画”として話題になっている最新作をご紹介します。

『三姉妹』


【映画、ときどき私】 vol. 493


韓国・ソウルに暮らす三姉妹。別れた夫の借金を返しながら花屋を営む長女ヒスクは、反抗期の一人娘に疎まれても、“大丈夫なフリ”をして日々を過ごしていた。いっぽう、熱心に教会に通い、模範的なキリスト信徒である次女ミヨンは、大学教授の夫と一男一女に恵まれ、高級マンションに引っ越したばかり。しかし、“完璧なフリ”をした日常がほころびを見せ始めていた。


そして、三女ミオクはスランプ中の劇作家。夫とその連れ子と3人で暮らしているが、自暴自棄になって昼夜問わず酒浸りの毎日を送っていた。ある日、“酔っていないフリ”をして息子の保護者面談に乗り込んでしまう。そんななか、父親の誕生日会のために久しぶりに帰省した三姉妹だったが、ある出来事によって、それまで蓋をしていた父親から与えられた幼少期の心の傷と向き合うことに……。


名だたる韓国映画賞において、女優部門を席巻するほどの話題となった本作。主人公の次女を演じ、プロデューサーも務めたムン・ソリさんをはじめ、長女にはドラマ『愛の不時着』で北朝鮮の人民班長役を演じて注目を集めたキム・ソニョンさん、そして三女には長年トップモデルとして活躍してきたチャン・ユンジュさんがそれぞれ熱演を見せています。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

イ・スンウォン監督


長編3本目にして、韓国の名匠イ・チャンドン監督から才能を高く評価されているイ・スンウォン監督。長女役のキム・ソニョンさんとは、公私にわたるパートナーとしても知られています。今回は、完成までの舞台裏や現場の様子、そして本作が描いている暴力の問題についても語っていただきました。


―本作は、ムン・ソリさんに見せるために脚本を書き始めたのがきっかけということですが、三姉妹となったのはなぜですか?


監督 ムン・ソリさんを主人公にした映画を作るならどんな役がいいかなと考えたとき、頭に浮かんだのが「姉妹」という設定でした。そして、次にどんな役割がいいだろうかと想像したときに三姉妹の次女がいいのではないかなと。なぜなら、長女と妹のどちらもケアしなければいけない立場になるので、この役ならおもしろくなると感じました。


―その後、脚本が出来上がった際に、妻でもあるキム・ソニョンさんはどのような反応でしたか?


監督 いつも僕が脚本を書いて真っ先に見せるのが、キム・ソニョンさん。彼女はいいところも悪いところも、つねに率直な意見をくれるので、彼女の感想や反応が土台になることは多いです。それくらい、僕が自分の脚本を判断するうえで、彼女は大事な存在と言えます。とはいえ、これまで僕が書いた脚本で彼女から高評価をもらえたものはあまりないのですが(笑)。


今回に関しては、初稿の段階でいいか悪いか客観的に見れないから、ほかの人の反応を知りたいと。そこで、次はムン・ソリさんに読んでもらったのですが、すぐに「出演したい」と言っていただきました。それを聞いて、キム・ソニョンさんもこの脚本には力があると感じてくれたようです。

独特で魅力のある女優たちが揃ってくれた


―最終的には、まったくタイプの異なる3名の素晴らしい女優さんが揃いましたが、現場での様子についてもお聞かせください。


監督 3人ともそれぞれに独特のスタイルがあり、本当に魅力のある女優だと思っています。ムン・ソリさんは、以前から巨匠と呼ばれる監督や実力派の俳優たちと仕事をした経験が豊富なので、まさにベテランの佇まい。しかも、演技するなかでご自身が持っているエネルギーを最大限に発揮してくださる方でした。


キム・ソニョンさんも、感情を作るのが上手な女優。即興でも豊かな表現ができて、本能的に演技ができる人だと感じました。いっぽうで、女優としての経歴が浅いのがチャン・ユンジュさんですが、彼女はトップモデルとして活躍していた方なので、その場のディレクションにも柔軟に対応してくれたのはよかったです。そんな彼女たちがそれぞれの魅力を持ち寄るような形で、うまく息を合わせてこの映画を作ってくれたと思っています。


―衣装に関しても、女性ならではのこだわりもあったそうですが、どういったアイディアが反映されているのでしょうか?


監督 それぞれの方が自分のキャラクターに合う衣装は何かということについて、かなり考えて現場に参加してくださいました。キム・ソニョンさんは、靴下や下着まで役に合わせていましたが、あえてメイクや髪の毛をあまりいじらないようにすることが多かったです。ムン・ソリさんは、完璧に見せるための衣装を意識していて、ときには自ら選んで購入してくることもありましたね。


チャン・ユンジュさんは、髪を脱色するところから始めていただきましたが、劇中でよく着ていた黄色のジャンパーは実際に彼女が家で着ている服で、役に合うと思って持ってきてくれたもの。そのほかにも、それぞれの家の雰囲気をどう表現すべきかということまでみんなで一緒に考えてくれました。

残念なのは、暴力が負の連鎖を生んでしまうこと


―後半には、暴力の加害者であった父親が自傷行為に走る場面があり、観る方によってもさまざまな解釈があると思いますが、そこには暴力によって生まれる“負の連鎖”があるようにも感じました。それを断ち切るために必要なのはどのようなことだと考えていますか?


監督 暴力を振るった本人が「いま自分は何をすることが大切なのか」ということをしっかりと自覚しなければ、この問題というのはなくならないと思っています。映画のなかで、父親は過去に家族に対して暴力を振るっていた人間でした。暴力を振るわなくなってからは、教会でもいい役職に就き、自分なりに人生と向き合っていきますが、一番の問題は暴力を振るっていた子どもたちに謝罪をしていないことです。


いくら現在の父親が堂々と生きていたとしても、それ以前の過ちをきちんと認識し、相手に対して謝罪をする努力が必要だと思います。特に、子どもたちには依然として傷が残っているわけですから、その傷が癒えるまでしっかりと謝罪を続けるべきです。非常に残念なのは、暴力を振るわれていた人が次の世代に暴力を振るうという負の連鎖が生まれてしまうこと。そういう状況を変えるためにも、当事者が謝罪をして、自らの過ちを認めなければ本質的な解決にはならないと考えています。

どんな暴力も容認されるべきではない


―現在、日本のエンタメ業界ではMe too運動をはじめ、あらゆる暴力に対して反発する声が高まり、大きな問題になっていますが、韓国ではこういった問題とどう向き合っていますか?


監督 実は韓国でも、同じようにMe too運動が非常に盛んになっているところです。特に、政治家や芸術分野における著名な監督、演出家といった人たちが関わっていたことが明るみになり、大きな問題となりました。僕はどんな暴力も容認されるべきではないと考えていますし、こういった問題はきちんと改善すべきことだと思っています。


特にそれらは犯罪につながるようなことでもあるので、加害者にも被害者にも勇気が必要かもしれませんが、根本から解決するための努力が必要だと感じているところです。


―その通りだと思います。また、本作では、宗教の側面も色濃く描かれていますが、宗教を描く上で意識したことは? 


監督 僕は神と人間の関係についてよく考えますが、人は何か満たされない気持ちがあるときに神に依存しがちですよね。でも、そんなふうに神に頼ってしまうことは正しいことなのだろうか、と思うことがあります。


僕はこの三姉妹のなかにあるキリスト教文化の側面や、人が本心を隠しながら上辺だけの姿で生きる様子を描きたいという気持ちがありましたが、僕自身もキリスト教信者なので、宗教のシーンに関してはいろいろと悩むことも。ただ、本作を観たキリスト教信者の方々からは不満ではなく、「この映画で覚醒した」「自分について反省した」といった声を聞くことができたので安心しました。

女性たちを応援する男性がもっと増えてほしい


―まもなく日本での公開を迎えますが、日本に対してどのような印象をお持ちですか? 


監督 僕は日本にとても興味を持っていますし、もっとも行ってみたい国ではありますが、残念ながらいまだにその機会に恵まれていません。今回の作品が公開されたら日本に行くチャンスがあるのではないかと密かに願っていたのですが、それも叶わず残念な気持ちです。日本のみなさんが自分の映画をどのように受け取るのか、観客の方々にも会ってみたかったです。


もし日本に行くことができたら、日本のみなさんがどういった行動を取り、どんな生き方をしているのかを観察し、現地で直接感じてみたいと思っています。あとは、日本食が大好きなので、お寿司や魚料理なども食べたいですね(笑)。


―最後に、この作品を通してananweb読者に伝えたいメッセージをお願いします。


監督 この映画では、いまの時代をどう生きていったらいいかを考えている女性たちを登場させました。 僕は女性たちを応援する立場にいたいと考えていますが、そんなふうに考える男性がもっと増えてほしいとも思っています。


そういう意味でも、かっこいい素敵な女性のキャラクターを描いた作品をこれからも作れるように努力していけたらと。ほかにも、そういった女性たちが登場する映画がもっとたくさん作られていくことを願っています。

痛くて苦しいのに、愛しさが込み上げる


女性が生きづらい社会のなかで、傷を抱えながらもただ精一杯にもがき続ける三姉妹たち。暴力や理不尽な世の中で生きるギリギリな彼女たちの姿に痛みを感じつつも、自分を偽ることをやめたときに広がる“希望の光”には、誰もが心を動かされるはずです。

取材、文・志村昌美

心に刺さる予告編はこちら!


作品情報

『三姉妹』

6月17日(金)よりヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!

配給:ザジフィルムズ

️©2020 Studio Up. All rights reserved.

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2022年06月16日 19時00分

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