本当の沖縄って? 沖縄ブームの“先駆け”映画が30年ぶりに復活したワケ

2022年05月13日 19時00分

エンタメ anan

2022年5月15日は、アメリカ統治下だった沖縄が本土復帰を果たして50周年となる記念すべき日。歴史的な節目を迎えることもあり、大きな注目が集まっています。そこで、今回ご紹介するのは、沖縄ブームの先駆け的存在とされている異色作です。

『パイナップル ツアーズ』


【映画、ときどき私】 vol. 483


舞台は、第二次世界大戦中にアメリカ軍が落とした不発弾が眠っている具良間島(ぐらましま)。そこでは、謎の病で声が出なくなったオペラ歌手の麗子が霊能者のユタを訪ねてきたり、ヤマト(日本)から流れてきたヒデヨシという名の青年が島の娘・春子とくっつけられそうになったり、1億円の懸賞金がかけられた不発弾を巡って騒動になったり、さまざまな出来事が起きていた。


本作は、沖縄の架空の島で繰り広げられる『麗子おばさん』『春子とヒデヨシ』『爆弾小僧』という3つのエピソードから構成されたオムニバス映画。1992年に劇場公開された際には、国内のみならずベルリン国際映画祭に出品されるなど海外でも話題に。そこで、30年ぶりにデジタルリマスター版として復活を遂げることとなったいま、こちらの方々に集まっていただきました。

真喜屋力監督、中江裕司監督、代島治彦さん


本作で劇場公開デビューを果たしたのは、沖縄出身の真喜屋監督(写真・右)と大学入学をきっかけに沖縄にハマってしまった中江監督(手前左)。そして、おふたりの仲間である當間早志監督を含めた琉球大学映画研究会出身の3名を世に送り出したのが総合プロデューサーを務めた代島さん(左奥)です。今回は、当時の撮影秘話やいまだから話せる舞台裏、これからも残したい沖縄の文化などについて語っていただきました。


―まずは、デジタルリマスター版にすることになった経緯から教えてください。


代島さん 僕が言い始めたことですが、理由としては、沖縄の人たちが本来持っているエネルギーや沖縄にある芸能の姿というのをもう一度みなさんに見てほしかったからです。いまでも沖縄に関しては、基地などの問題ばかりが取り上げられがちですが、それだけではないのだよと。特にこの作品は、90年代に起きた沖縄ブームのきっかけでもあったので、公開当時にこの映画を観ていない世代の方々も含めて、ウチナー(沖縄)文化を味わっていただきたいと思いました。


―30年ぶりに復活すると聞いて、監督たちはどのようなお気持ちでしたか?


真喜屋監督 いまの若い世代のみなさんがどういう反応をするのかを見るのは面白いですし、デジタルにしてもらうことで映画としても寿命が延びるので、すごくうれしかったです。


―実際、公開当時とは違う感想なども聞かれたのでしょうか。


真喜屋監督 たとえば、『パイナップル ツアーズ』以降に大人になった人たちに話を聞いてみると、沖縄を舞台にしたドラマを観たときに持っていた違和感がこれでスッキリしたとは言っていました。とはいえ、ローカルな話を全国区でやろうとすると、有名人を起用しないといけないとか、わかりやすく修正しないといけないとか、いろいろとあるので仕方がないことなんですが…。でも、この作品では沖縄の人は沖縄の人、ヤマトの人はヤマトの人に演じてもらえたので、そこはよかったと思っています。

怖さもあったが、「1発当ててやろう!」と思っていた


―つまり、この作品ではリアルな沖縄が映っていると。


中江監督 そうですね。でも、これは覚悟のいることなので、プロデューサーの度胸が試されるというか、代島さんのすごさだと思います。というのも、沖縄に軸足を置くと言うことは、全国の人に理解されない可能性もありますから。


代島さん いや、あの頃はただ無知だったというのもありますね。ただ、それまでそういう作り方をした映画がなかったので、僕はそれが面白いなと。なので、ヤマトの人間は口を出さずに、金だけ出すみたいな(笑)。とはいえ、この映画は個人で1億円を集めてやろうとしていたので、それはけっこう大変でした。


中江監督 確かに、1億円の採算なんて普通は取れないので、相当無謀だったなと思いますよ。しかも、本土から来てもらった撮影と録音以外のスタッフは新聞で募集した素人さん。監督である僕たちも何もわかってないような状態なんて、普通ならありえないです。


真喜屋監督 ちなみに、最初から1億円突っ込んだわけではなくて、もっと少なかったのにずるずると増えてしまったんでしたよね?


代島さん そうそう。3000万円だったものが5000万円になり、どんどん増えてしまったので、マンションを抵当に入れるまでに…。ヒデヨシ役の利重剛さんからは「人生台無しにしますよ」って言われましたけどね(笑)。でも、僕は配給も宣伝もイベントプロデュースも印刷物の作成も全部1人でやっていたので、「1発当ててやろう!」みたいな下心はあったと思います。


中江監督 怖い思いもしましたが、こういう話が笑いながらできるようになってよかったですね。

つらいこともあったが、現場は楽しかった


―裏でそんなリスクがあったとは驚きです。真喜屋監督は『麗子おばさん』、中江監督は『春子とヒデヨシ』をそれぞれ担当されていますが、いまだから言える現場でのハプニングなどもありましたか?


中江監督 撮影中はきちんと寝られない日が続いていたので、布団を取りに行った助監督の女の子が押し入れの布団に顔を突っ込んで、立ったまま寝てたこともありましたね(笑)。真喜屋も演出しながら寝ていたので、周りに気がつかれないように起こすというのもしょっちゅうでした。


真喜屋監督 あのときは、昼と夜の撮影が終わったあとにも準備をしていましたから。考えているふりしてごまかしていたものの、役者たちにもバレていたとは思います(笑)。つらかったですけど、楽しかったですね。


代島さん あとは、普通の現場をよく知っている利重さんが一番大変だったんじゃないかなと。


中江監督 ものすごい大型の台風が来たときには利重さんがひとりで滞在していた一軒家の床が吹き飛びそうになったり、海の真ん中に取り残されるシーンでは雲が晴れないからという理由で2~3時間も岩の上で待たされたり。


真喜屋監督 あのときはさすがにイライラし始めていたので、僕が海にもぐってウニを利重さんに渡したんですよ。そしたらすごく喜んでくださって、「最高の助監督だな」と言いながら岩の上でウニを食べていました(笑)。


中江監督 面白い話はまだまだありますが、言えないことのほうが多いですね。


真喜屋監督 本当に、墓まで持っていく話ばっかりです(笑)。

実力を超えたとんでもないものが映っていると感じた


―ほかの現場では聞けないようなすごいエピソードばかりがありそうですね。その後、沖縄だけでなく東京でもヒットし、ベルリン国際映画祭への出品と飛躍を遂げますが、ご自身で手ごたえを感じた瞬間はありましたか?


中江監督 撮影しているときは何の実感もなかったですが、あるとしたら編集をしているときですね。「絶対にここから何かが生まれてくる」という根拠のない自信とともに、もしかしたら自分たちの実力を超えたとんでもないものが映っているかもしれないとは感じました。


代島さん 僕も編集のあとに音楽がついたのを見て、映画としての段取りを踏めているなとは思っていました。そんなときに、東京にいたベルリン国際映画祭の審査員に観てもらうことができ、出品が決まってはじけていった感じでしたね。


中江監督 監督としては全然何もできていないんですけど、映画が生き物のように勝手に歩いていく様子を目の当たりにしたというか、いろいろな人たちが集まり、そこに時代性がハマって一気に燃えたような感じでしたね。フィクションでありながら、当時の沖縄を映したドキュメンタリーみたいなところもあるので、二度撮れない作品だと思います。


真喜屋監督 ベルリンに行けたことも含めてなかなかできない経験でしたし、この作品があったおかげで、いまにつながっているというのは感じています。


代島さん 僕たちだけでなく、この映画に関わったすべての人たちにとってもここが出発点となっているので、そういう意味でもいい作品でしたよね。


―本作では、30年前のリアルな沖縄が詰め込まれているということですが、これからも残していきたい沖縄の文化は何ですか?


代島さん それは、沖縄の言葉ですね。というのも、中江さんたちが経営している沖縄の桜坂劇場を訪ねた際、沖縄言葉の講座を開くと聞いて、それくらい使われなくなってきているのかと驚いたところだったので。


中江監督 言葉というのは大事なもので、言葉がなくなると沖縄人としてのプライドが失われていく可能性ありますから。これからも大々的に取り組んでいくつもりでいます。


真喜屋監督 あとは、沖縄人としてのアイデンティティ。やっぱり自分のアイデンティティを持っている人は強いですし、何よりも面白い。ただ、これは沖縄の人だけでなく、東京の人にも言えることなので、みなさんにも大切にしてほしいところです。

おじいやおばあからの教えが受け継がれている


―それでは最後に、ananweb読者に向けて見どころやメッセージをお願いします。


中江監督 僕らが最初とは言わないまでも、沖縄の映画のなかではいろいろなことを切り拓いていった作品なので、時代を切り拓いていった女性誌でもあるananを読まれている方々がこの作品をどのように観るのかはとても興味があります。あのときは、道がないことにも気がつかないままただ夢中で前に進んでいっただけでしたが、それがこれからどうなっていくのかは楽しみです。


真喜屋監督 僕も自分が本当に面白いと思っていたことに正直に向き合い、好きな人たちと一緒に貫いた結果がこの映画なので、そういった部分は観ていただく方々にも受け止めてもらえると思っています。


代島さん すでに30年という年月は経っていますが、いまの時代でも海外でも通用する作品で本当に古びていないと改めて感じました。当時の空気感や気持ちがギュッと真空パックされていますので、りんけんバンドの名曲とともにそういうところも楽しんでいただけたらと。あとは、放送中のドラマ『ちむどんどん』でも沖縄が描かれているので、違いを見比べて楽しんでもらうのも面白いのではないかなと思います。


中江監督 いまのブームにも乗るとは、さすがプロデューサー(笑)。それと、映画監督というのは詐欺師みたいなものなので、映画のなかでは大きな嘘をついています。でも、食べ物もない戦後を経験した沖縄のおじいやおばあから、非日常を味わうことは生きるうえで欠かせないことだと僕は教えもらいました。そういった思いは、この作品にも脈々と受け継がれているので、そこも感じていただけるのではないかなと。


真喜屋監督 ぜひ、みなさんもこの映画の“嘘”に気持ちよくだまされていただけたらと思っています。

沖縄が放つ熱狂の渦に巻き込まれる!

30年という長い年月を経たいまなお、決して色褪せることのない痛快作。沖縄に降り注ぐ陽の光のような熱気と、ウチナーンチュの溢れんばかりのエネルギーに満ちた“ホンモノの沖縄”にどっぷりと浸かってみては?

取材、文・志村昌美

エネルギッシュな予告編はこちら!


作品情報

『パイナップル ツアーズ ー デジタルリマスター版 ー』

5月14日(土)より、シアター・イメージフォーラムほか 全国順次公開

配給:ノンデライコ

©スコブル工房

anan

2022年05月13日 19時00分

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