脱北者が韓国で女性ボクサーに...差別や偏見と闘いながら見つけた真実の愛

2021年11月11日 20時00分

エンタメ anan

誰もが何かと闘い続ける日々を送るなかで、ときには心が折れてしまうこともありますよね? そこで、そんな気分のときに必見の感動作をご紹介します。

『ファイター、北からの挑戦者』


【映画、ときどき私】 vol. 428


韓国・ソウルにある小さなアパートに辿り着いたのは、脱北者の女リ・ジナ。中国に残してきた父を呼び寄せるためのお金を稼がなければならず、食堂で休む間もなく働きながらボクシングジムでも清掃の仕事を掛け持ちすることになる。


ジムを切り盛りする館長とトレーナーのテスは、悲惨な過去と怒りを抱えて壁を作るジナから静かに燃えるファイティングスピリットを感じ取っていた。そして、グローブを渡されたジナは、次第にボクシングの世界へのめり込んでいくことに……。


大ヒットドラマ『愛の不時着』に出演していたイム・ソンミが初主演を務め、熱演ぶりが絶賛されている本作。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

ユン・ジェホ監督


2016年に制作されたドキュメンタリー『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』で、世界的な注目を集めたジェホ監督。今回は、韓国とフランスを拠点にするなかで、長年取り組んでいるテーマに込めた思いや見どころの詰まったシーンの裏側などについて、語っていただきました。


―監督はこれまでも脱北者にカメラを向けていますが、なぜ今回の作品でもこの題材を取り上げようと思ったのですか? 長年、フランスに住んでいらっしゃったことも関係しているのでしょうか。


監督 そうですね、やはり自分の祖国から離れて、ほかの国にいたというのは大きかったと思います。特に、韓国は南と北に分断されている国ですから。その様子を客観的にとらえることで違う見方ができ、歴史についても考えるようになったので、そこで得た影響はあったように感じています。


私は昔、絵を描いていたのですが、そのときによく言っていたのは、「絵は近くではなく、遠くで見るほうがいい」ということ。そうすることで、より物事がわかるようになるので、それと同じことが言えると思います。あとは、以前『Promesse』という短編映画を作った際に知り合った朝鮮族のおばさんのおかげで中国にいる脱北者と出会えたことも、この作品のきっかけとなりました。


―実際に脱北者の方々と会われてみて、いかがでしたか?


監督 『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』の撮影中に聞いた話は、いまでも僕のなかでかなり大きな影響力を持っているように感じています。マダム・ベーが中国からタイに行く際、私も同行したのですが、そこには本当にたくさんの脱北者がいました。なかでも印象的だったのは、自分と同世代の人たちが多くいたこと。彼らとは、「子どもの頃にどんな遊びをしていたか」といった文化に関する話をいろいろとしたのが思い出としてあります。

社会の偏見を脱ぎ捨てていく過程を描きたかった


―そういった彼らの姿を見て、感じたことや学んだこともありましたか?


監督 脱北者の方々というのは、お互いに頼ったり、助け合ったりしていますが、そういう関係性を見て悟ったのは、人間として他人をどう尊重したらいいのか、ということでした。それに比べて、いまの私たちの周りには、社会の偏見がたくさんあり、それが私たちの人生のなかに根を張って、私たち自身をがんじがらめにしているような気がしています。


そういったこともあって、この映画では社会の偏見をひとつずつ脱ぎ捨てていく過程を描きたいと思いました。私がいままで扱ってきたのは、家族や他人の愛といったものですが、それらは実際に周りから見聞きしたもの、もしくは私が経験したものからインスパイアされています。


―劇中では、ジナとテスのラブストーリーも非常に素敵でした。最初から恋愛の部分も描くことは決めていたのでしょうか。


監督 もともとテスというキャラクターは、他人に対して憐れみを持てる人物の象徴にしたいと思って書きました。人に対して愛着を持てるというのは、他人に対して関心を持っているからこそ。友達でも恋人でもいいので、そういう人物を入れたいという考えからテスが生まれました。


とはいえ、テス自身も過去に悪さをしていた時期があり、いろいろな悩みを抱えていたので、脱北者であるジナと気持ちのうえで通じ合えるのではないかなと。テスが味わった感情は、私自身も似た気持ちがあったので、脚本の段階からテスの役割を大切に描きました。

大切なのは、相手にちゃんと関心を持つこと


―監督は、「この作品には随所にメタファーを入れている」と事前にコメントされています。そのなかでも、注目してもらいたいシーンがあれば教えてください。


監督 この映画のなかで、個人的に私が一番好きなのは、ジナとテスが一緒に遊園地へ行くシーン。あの場面で、2人はすべてのことを消し去り、人間対人間として存在しているんです。そして、他人に対する純粋な感情というのが描かれている瞬間でもあると思います。なので、そういったメッセージを伝えるうえでも、とても大切なシーンになりました。


―特に、ジナの表情がとても印象的ですよね。


監督 そうですね。おそらく観客のみなさんは、ジナを見ていて、「どうして笑わないんだろう?」「笑ってほしいな」という思いを抱くことになると思いますが、遊園地に行ったとき、彼女は初めて笑顔を見せます。それまで社会で差別を受け、本当につらい人生を歩んできたことで笑えなくなっていたジナですが、テスがちゃんと自分を見てくれていたとわかるから笑うことができるのです。


そういったこともあり、あのシーンでは、他者に関心を持つことと偏見を打ち破ることの大切さを強調できたらいいなと。私たちにとって必要なのは、他者に対して知らないふりをすることではなく、疎外されている人がいたら、相手にちゃんと関心を持つことなのです。遊園地のシーンを描くことで、私自身がずっと取り組んできた愛の物語を表現したいと思いました。

究極の闘いは、自分との闘い


―本作では、闘い続ける人たちの姿が描かれていますが、監督自身がいま闘っていることは?


監督 私もみなさんも同じく、夢や目標のために闘っていると思います。人は意味もなく生まれてくるわけではなく、生まれてくるからには何かしらの意味があるはず。そして、生きていくなかで、いろんな目的に向かって挑戦していくのだと思いますが、究極はやはり自分との闘いではないでしょうか。


私も自分の夢について思いを巡らせることがありますが、大切なのは、夢が叶うか叶わないかではなく、夢に向かって進んでいく過程で何を悟ることができるかだと感じています。


そのなかで、世の中というものをどういうふうに見たらいいかということもつねに悩んでいますが、それに気づかせてくれたのは、『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』を撮ったとき。そこで、やっと自分の偏見を捨てることができるようになりました。とはいえ、社会の偏見を完全に捨てることはなかなか難しいので、いまでもそのための努力を続けているところです。


人はいつも幸せでいられるとは限らないので、人生とは本当に難しいものだと思いますが、だからこそいろいろな可能性を見い出せるものでもあると考えています。なので、いまは自分の夢と守るべき家族のために闘っていると言えるかもしれません。

日本のヒューマニズムには、通じるものを感じる


―まもなく日本で公開を迎えますが、いまのお気持ちをお聞かせください。


監督 私にとって、日本での公開は『マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白』に続いて2本目になるので、緊張とともに期待もしています。ただ、日本のみなさんがこの作品をどのようにご覧になるのかは、すごく気になるので、心配な気持ちもありますが……。観てくださった方の感想が聞けたらうれしいです。


―ちなみに、日本の作品でお気に入りなどはありますか?


監督 私は日本の漫画やアニメが大好きで、宮崎駿監督の『紅の豚』をはじめ、いろいろな作品を観て育ちました。そのほかに好きな監督といえば、是枝裕和監督。作品が目指している方向性やメッセージの伝え方は、自分と通じるものを感じますし、映画のなかのヒューマニズムも心温まるものばかりなので、かなり影響を受けていると思います。


―それでは最後に、日本の観客に向けてメッセージをお願いします。


監督 この作品を多くの方に観ていただき、ジナという人物を応援してほしいと願っています。なぜなら、彼女を応援する気持ちというのは、人が他人に対して向ける自然な心だと思っているからです。みなさんにもこの物語を理解してもらえるはずですし、そういう気持ちを持っていただけると信じています。そして、それこそが「ヒューマニズムはまだ消えていない」ということの証になるのではないかなと。ぜひ、よろしくお願いいたします。

交錯するそれぞれの思いに、魂が震える!


生きるとは、つねに何かと闘い続けなければならないことを体現しているジナの生き方。リングから降りたくなってしまうときもあるけれど、勇気を持って前に進めば、その先には愛と希望があるのだと信じさせてくれる1本です。

取材、文・志村昌美

胸に迫る予告編はこちら!


作品情報

『ファイター、北からの挑戦者』

11月12日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

配給:アルバトロス・フィルム


© 2020 Haegrimm Pictures All Rights Reserved

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2021年11月11日 20時00分

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