道端で出産、そして子どもは...モロッコで未婚の妊婦がたどる過酷な現実とリスク

2021年08月12日 19時40分

エンタメ anan

気軽に海外旅行を楽しめない時期が続いているいまだからこそ、異国の文化や景色に触れられるのが映画のいいところ。そこで今回オススメするのは、日本で初めて劇場公開されるモロッコ発の長編劇映画です。

『モロッコ、彼女たちの朝』


【映画、ときどき私】 vol. 403


モロッコの都市カサブランカの路地をさまよっていた臨月のサミア。イスラーム社会で未婚の母はタブーとされていたため、美容師の仕事も住まいも失ってしまう。ある晩、路上で眠るサミアのもとに現れたのは、心を閉ざして働き続けてきたパン屋を営む未亡人のアブラだった。


パン作りが得意でおしゃれなサミアの登場は、孤独だった親子の生活を徐々に変えていく。町中が祭りで盛り上がるなか、サミアの陣痛が始まる。生まれてくる子どもの幸せを願い、養子に出すと覚悟していたのだが……。


2019年には女性監督として初のアカデミー賞モロッコ代表に選ばれ、大きな注目を集めた本作。こちらの方に、制作までのいきさつについてお話をうかがってきました。

マリヤム・トゥザニ監督


映画監督、脚本家、女優として活躍しているトゥザニ監督。本作のストーリーは、自身が大学卒業後に家族で世話をした未婚の妊婦との出会いをもとに作り上げています。今回は、実在の女性との忘れられない思い出やいまの社会に訴えたいことについて語っていただきました。


―本作は、各国の映画祭をはじめ、世界的に高い注目を集めましたが、モロッコではどのような反響がありましたか?


監督 デリケートな題材なので不安もありましたが、多くの方に支持していただくことができ、とてもうれしかったです。なかでも印象的だったのは、保守的な人たちを含む観客と質疑応答をしたときのこと。私たちの社会でタブーとされているようなテーマについて、みながオープンに対話することを望んでいたと知り、非常に驚きました。


もちろん、作品が描いていることに全員が同意したわけではありません。それでも、みなが前に進んでいこうとする気持ちを感じられただけでも美しいことだと思いました。


―サミアと同じ状況に陥っている女性たちにとっても、勇気を与える作品だと思います。


監督 実は、妊娠中もしくは出産経験のある未婚女性たちを招いた試写会を開催したこともありましたが、私にとってはそれも非常にエモーショナルな出来事でした。なぜなら、「サミアを通して自分の尊厳を取り返せた」「改めて人として見てもらえたと感じられた」といった私にとってかけがえのない言葉を彼女たちからもらうことができましたから。


彼女たちが抱えている事情も思いもそれぞれ違いますが、誰もが汚名を着せられながら生きているので、自分たちをしっかりと見てもらえたことがうれしかったようです。

未婚で子どもを育てている女性も成功例のひとつ


―ご両親がサミアのモデルとなった女性を家に迎え入れたときは、10年以上前でいまよりもより女性の置かれている立場は厳しいものだったと思います。実際、面識のない未婚の妊娠女性を家に迎え入れることにリスクはなかったのでしょうか?


監督 もちろん、当時の彼らにリスクはありましたし、それはいまでも変わらずあると思います。なぜなら、モロッコでは婚外交渉が違法とされているため、もし未婚のまま病院で子どもを産んでいたら、投獄される可能性もあるような社会だからです。


私の父は弁護士だったので、そういったリスクも理解していましたが、両親はとても大きな心の持ち主なので、彼女と生まれてくる子どもを守るほうが大事だと感じたのだと思います。自分たちにも問題が降りかかるかもしれなかったにもかかわらず、彼女を迎え入れた両親は本当に勇気がある人たちです。もしも、彼女を見放していたら、道端で出産し、見知らぬ人に子どもを連れ去られていたかもしれません。


―監督にとっては、その女性との出会いはどういった影響を与えていますか?


監督 以前、国際女性デーのためのドキュメンタリー制作の依頼を受けた際、経済的にも精神的にも成功している女性を撮ってほしいと頼まれたのですが、未婚の母である女性たちも一緒に取り上げることを条件に仕事を受けました。私は未婚で子どもを育てている女性もまたひとつの成功例だと思っているので、彼女たちの声や葛藤を取り上げることに価値があると感じていたからです。


そんなふうに、サミアのモデルとなった女性は、つねに私と一緒に歩き続けている存在と言えるかもしれません。実際、私が妊娠したときにも彼女のことを思い出し、本能的にこの作品の脚本を書いたほどですから。

モデルの女性は自分の人生にとって重要な存在


―その女性とは、出産のあとも交流はありましたか?


監督 彼女の話ができることはとてもうれしいので、聞いてくれてありがとうございます。忘れられないことといえば、彼女が子どもを養子に出す前のこと。「赤ちゃんと一緒に写真を撮りましょうか?」と声をかけたんですけど、彼女は「思い出を残すとつらくなるから……」と言って断ったんです。


でも、いよいよお別れとなる日に、彼女から「写真を撮ってほしい」と。当時は携帯もなかったので、カメラで撮り、現像した写真は母に後日渡しました。ただ、私たちは匿名でいたいという彼女の思いを尊重したため、どこの村から来た誰なのかも一切わからないまま。バスに乗って帰っていった彼女と連絡を取ることができずにいました。


ところが、それから2年が経過したある日。彼女が写真を取りに訪ねてきたのです。そのとき私はいませんでしたが、母が一緒にお茶を飲んで、写真を渡したと教えてくれました。それ以来、彼女とは音信不通ですが、実はこの映画が公開されたとき、私は彼女に向けたメッセージをさまざまな雑誌や新聞に掲載したのです。


―どのような思いを綴ったのでしょうか?


監督 映画作家として、母として、私の人生においていかにあなたが重要な存在だったか。そして同じ立場にいる多くの女性たちの真実が明らかにされないなか、あなたのおかげでこういった物語をたくさんの人と分かち合うことができました、といったことを書きました。


彼女の存在と物語がどれほど社会に貢献し、どれほど私にとって意義のあることだったのかを伝えたかったのです。残念ながら、まだ彼女からの連絡はありませんが、少なくとも私の感謝の気持ちは届いているのではないかなと。いつかまた私の実家のドアをノックしてくれると信じています。

まずは社会の目から変えていく必要がある


―再会できる日が来ることを願っています。ちなみに、その当時といまのモロッコでは、未婚で出産する女性たちの置かれている立場にも変化はあるのでしょうか?


監督 多少改善された部分はあっても、違法であることはいまだに変わっていないですし、社会的な圧力や世間の目という意味でもあまり変わってはいないのではないかなと。だからこそ、観客の気持ちに直接語りかけることができるこういった映画を作ることが私にとっては重要だったのです。ぜひ、多くの方に感じたことを考えてほしいと願っています。


当然のことながら、法律を変えることも必要ですが、まずはこういった女性たちを色眼鏡で見る社会から変えていかなければいけません。それを変えることができれば、おそらく法律もついてくると私は考えています。


―本作は、モロッコ製作の長編劇映画として日本で初めて劇場公開される作品となるので、私たち日本人にとっても学びの多い作品になると思います。公開を控えてどのようなお気持ちですか?


監督 日本は以前からずっと行きたいと思っている“夢の旅先”でもあるので、自分の作品が上映されることは本当に幸せなことです。私にとっては、歴史的な部分と現代性が融合している日本文化の美しさや価値観にはとても魅了されますし、リスペクトの気持ちも抱いています。


私は若い頃からなぜか日本の田園風景の写真が大好きなので、都会だけでなく、郊外にも足を運んでみたいなと。せっかく行くなら長期間滞在したいと夫とも話し合っているので、そのときは日本の風景にどっぷりと浸かりたいですね。早く行ける日が来るといいなと思っています。


―お待ちしております。それでは、日本の観客へメッセージをお願いします。


監督 みなさんには、ぜひ気持ちを解き放ち、彼女たちの核心に触れながら同じ経験を一緒に味わってほしいと思っています。監督としての意図は、彼女たちの魂まで感じてもらうことなので、それを受け取っていただけたらうれしいです。

新たな一歩を踏み出す力をくれる


多くを語らずとも心に訴えかける美しいシーンの数々と、女優たちの繊細な演技に惹きつけられる珠玉の1本。悲しみや苦しみを抱えながらも心のままに生きる決意をした彼女たちの姿は、私たちにも光を与えてくれるはずです。モロッコが醸し出す異国情緒の香りとともに、その思いを感じてみては?

取材、文・志村昌美

琴線に触れる予告編はこちら!


作品情報

『モロッコ、彼女たちの朝』

8月13日(金)、TOHOシネマズ シャンテほか全国公開

配給:ロングライド


© Ali n' Productions – Les Films du Nouveau Monde – Artémis Productions

©Lorenzo Salemi

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2021年08月12日 19時40分

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