「日本のアニメには新しい息吹がある」フランスアニメの気鋭監督が語る魅力

2021年08月11日 20時30分

アニメ・漫画 エンタメ anan

東京アニメアワードフェスティバル2021でグランプリと東京都知事賞を受賞した注目のアニメーションが、ついにフランスから日本に上陸。アニメ好きのみならず、世界各国の観客を魅了している話題作をご紹介します。

『ジュゼップ 戦場の画家』


【映画、ときどき私】 vol. 402


1939年2月、スペイン内戦から逃れた大勢の難民が隣国フランスに押し寄せた。しかし、フランス政府によって収容所に閉じ込められた彼らは、劣悪な環境で苦しむこととなる。そのなかでも、難民のひとりである画家のジュゼップ・バルトリは人間らしさを保つ唯一の手段であるかのように、建物の壁や地面に黙々と絵を描き続けていた。


そんなジュゼップに鉛筆と紙を与えたのは、若きフランス人憲兵セルジュ。いつしか2人は固い友情で結ばれていくことに。そして、ジュゼップが消息不明の婚約者マリアとの再会を夢見ていることを知ったセルジュは、密かにマリアの捜索を行うのだが……。


画家ジュゼップ・バルトリの波乱に満ちた人生と知られざる真実をもとに描かれた感動の実話。今回は、『この世界の片隅に』の片渕須直監督も絶賛する本作について、こちらの方にお話をうかがってきました。

オーレル監督


フランスの全国紙でイラストやグラフィックを手掛け、イラストレーターとしても活躍しているオーレル監督。本作が長編アニメーションデビュー作にもかかわらず、カンヌ国際映画祭への正式出品をはじめ、ヨーロッパの映画賞を総ナメにする快挙を成し遂げています。そこで、作品に込めた思いや日本のアニメーションに惹かれる理由について語っていただきました。


―本作は、あるブックフェアでジュゼップ・バルトリの作品を偶然目にしたことから始まり、そこから10年もの歳月をかけて完成させたそうですね。改めて、この作品とともに歩んだ道のりを振り返ってみていかがですか?


監督 確かに10年は長かったですね……。でも、10年も経った気がしないのは、その間にも本当にいろんなことがあり、山あり谷ありだったからかもしれません。資金調達などが思い通りに進まなくて苦しいときもありましたが、制作過程は非常にエキサイティングでワクワクしましたし、素晴らしい冒険ができたと思います。大変なことが95%を占めていたとしても、残り5%で味わった芸術的な喜びがつらいこともすべて忘れさせてくれました。


―監督は「ジュゼップ・バルトリの想いを理解し、引き継ぎ、自分のペンによって現代によみがえらせたい」という衝動に突き動かされたそうですが、この題材をいまの時代に作品として発表する意味についてはどうお考えでしたか?


監督 彼が生きていたのは1939年ですが、僕はあまり時代的なものは関係ないと思っています。なぜなら、当時の強制収容所で起きていたことは、現在のヨーロッパが抱えている難民の問題とつながっているところがあるからです。実際、制作している最中にシリア戦争が原因で難民がヨーロッパへと入ってきたので、僕たちにとってはよりリアルで、より現実的な問題となりました。そういったこともこの作品が大きな反響を呼ぶことになった要因だと思います。

日本のアニメーションからも影響を受けている


―確かに、現代社会が抱える問題についても考えさせられました。


監督 ただ、最初からそういったことを打ち出そうと意図していたわけではありません。もともとは彼のデッサンと出会い、彼の人生を知ったことが始まりでしたから。以前から映画が好きでしたし、スペイン戦争といまの難民問題についても関心があったので、すべてを一緒に映画として語りたいと思うようになったのです。


―監督のキャリアにおいても、本当に大きな意味を持つ作品になったのではないでしょうか。


監督 そうですね。「イラストは自分にとってどんな意味があるのか」「イラストレーターの仕事とは何か」といったさまざまな自問自答をし続ける濃密な時間を過ごすことができました。そんななかで、まず気がついたのは、イラストとアニメーションでは表現方法も制約も違うということ。それゆえにより深く考察し、核心を突き詰めていく作業をしました。


あとは、いままで1人で仕事していた僕にとってはグループで仕事をするのも初めてだったので、人間としてもイラストレーターとしてもすごく成長できたのではないかなと思っています。この10年でいろいろな変化がありましたし、新しい経験をたくさん重ねることができました。


―アニメーションを制作するうえで、影響を受けている方や作品について教えてください。


監督 アニメーションだけではなく、映画や絵画、音楽、文学といった本当にさまざま表現様式から影響を受けていると感じています。なので、ひとつを選ぶことはできないのですが、今回の作品で言うと、スペイン内戦について知る機会を与えてくれたケン・ローチ監督の『大地と自由』や本作の脚本を務めてくれたジャン=ルイ・ミレシの存在は大きかったかなと。


それから、僕自身はアーティストとして1980年代にテレビで見ていた日本のアニメシリーズからもたくさんの影響を受けていると思います。

普遍的な物語であることを感じてほしい


―たとえば、どのようなアニメシリーズがお好きでしたか?


監督 子どもの頃に大好きだったのは、まず『キャプテン翼』と『シティーハンター』。あとは『めぞん一刻』、『ハイスクール!奇面組』、『キャッツ・アイ』、『鉄腕アトム』も好きでしたね。


そのほかに興味深いと思ったのは、フランスの文学作品をアニメ化した『三銃士』や『家なき子』。キャラクターが動物に変わっていたりするところとか、外国人の目がすごく大きく描かれていたりしたのがおもしろくて(笑)。いまは、僕の息子が日本のアニメが大好きですごくハマっているようです。


―では、監督という立場になってから、いまの日本のアニメーションについてはどのようにご覧になっていますか?


監督 日本のアニメーションに惹かれる理由は、やはり普段僕たちが日常的に見慣れているものとはかけ離れたものを見せてくれるところではないかなと。おそらくそれは日本だけでなく、アジア映画全体に言えることかもしれませんが、ヨーロッパの作品にはないようなものをいつも提示してくれますよね。


あとは、日本のアニメーションはまだまだ僕たちが到達できないほど凝った作業や異なるアプローチをしているので、そういった新しい息吹というか、新鮮さを味わわせてくれるのが魅力だと思います。


―最後に、作品を通して日本の観客に伝えたい思いをお願いします。


監督 本作で描いた物語や歴史的背景は、日本から見れば遠く離れたものと感じるかもしれません。しかし、戦争や政治による難民に関しては、歴史のどの時代でも、現代でも全世界的な問題であり、普遍性のある話だということは伝えたいです。

時を超えて訴えかけるメッセージが胸に響く


戦争が引き起こした悲惨な現実を知るだけでなく、現代の私たちがすべきこと、そして「生きるとは何か」を突きつけられる本作。ジュゼップ・バルトリが実際に描いた力強いスケッチと、その想いを引き継いだオーレル監督の描くイラストが共鳴して生み出される圧倒的な画力に、誰もが心を揺さぶられるはずです。

取材、文・志村昌美

真に迫る予告編はこちら!


作品情報

『ジュゼップ 戦場の画家』

8月13日(金)、新宿武蔵野館ほか全国順次公開

配給:ロングライド


©Les Films d'Ici Méditerranée - France 3 Cinéma - Imagic Telecom - Les Films du Poisson Rouge - Lunanime - Promenons - nous dans les bois - Tchack - Les Fées Spéciales - In Efecto - Le Mémorial du Camp de Rivesaltes - Les Films d'Ici - Upside Films 2020

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