「無意識のうちに日本の作品から影響を...」韓国の注目監督が語る裏側

2021年07月07日 19時00分

エンタメ anan

仕事でうまくいかないことがあると、「自分には無理かも……」とつい弱気になってしまうこともありますよね? そこで、そんな気分を一気に吹き飛ばしてくれる映画としてご紹介したいのは、実際に起きた重大事件をもとに、巨大な組織に立ち向かったある女性たちを描いたオススメの話題作です。

『サムジンカンパニー1995』


【映画、ときどき私】 vol. 395


1995年、ソウル。サムジン電子に勤めるジャヨン、ユナ、ボラムの3人は、実務能力は高いのに高卒であるがゆえに、お茶くみや雑用ばかりをさせられていた。ところが、そんな彼女たちにもチャンスが到来! それは、会社の方針でTOEIC600点を超えたら、昇進できるというものだった。


ステップアップを夢見て英語を学んでいた彼女たちだったが、ある日、自社工場が有害物質を川に排出していることを偶然知ってしまう。解雇の危険を顧みず、事実を隠蔽する会社を相手に力を合わせて真相解明に向けて奔走する3人。はたして、不正に立ち向かう彼女たちの正義は、勝利することができるのか……。


1991年に起きた斗山電子のフェノール流出による水質汚染事件をモデルに、グローバル化時代を迎えた1990年代の韓国を描いている本作。韓国でも大きな注目を集めた作品が、いよいよ日本でも公開を迎えます。そこで、こちらの方にお話をうかがってきました。

イ・ジョンピル監督 


これまでに『花、香る歌』などで高く評価されているジョンピル監督。今回は、本作を通じて訴えたいことやキャストとの秘話、そして働く女性たちの現状などについて、語っていただきました。


―本作は実話が基になっていますが、そのときのことはどのように記憶していましたか?


監督 事件が起きた当時、工場の下水溝から黒い水が流れ出る様子が毎日のようにニュースで映し出されていたので、深刻なことなんだろうなと思って見ていたのは覚えています。ただ、まだ中学生だったので、正直あまり詳しいことはわかっていませんでした。そういったこともあり、この映画を作るにあたっては、改めて調べ直すことが多かったです。


そこで気がついたことは、いかに当時の人たちが無知だったかということ。いまでこそ、「環境汚染は間違っていることだ」という認識が誰のなかにもありますが、当時は多くの人がそういうことを理解していなかったんだと思います。


―その事件が韓国の方々に、影響を与えたこともありましたか?


監督 個人的に興味深いなと思ったことのひとつは、飲み水に関して。実は、この事件の前まで韓国ではミネラルウォーターは販売されておらず、人々は水道水を飲んでいました。それがこのことがきっかけとなり、ミネラルウォーターが販売されるようになり、いまではみんなミネラルウォーターを飲むようになったのです。そのことは、今回の調査のなかで知り、非常に驚きました。


―モデルになっている斗山電子は、韓国最長寿企業で財閥の斗山グループのひとつです。映画化にあたって、劇中でも描かれているような妨害はありませんでしたか? 


監督 そういうことは、まったくありませんでしたね。もしもそんなことがあったとしたら問題ですから、もはや大企業ではいられなくなってしまうでしょうね(笑)。

働く女性たちの環境は改善されていると感じられた


―では、この題材を取り上げると言ったとき、周囲の反応はいかがでしたか?


監督 当時のことを知っている人たちは「昔はあんなこともあったよね」と言っていましたが、若い世代の人たちからは「こんなすごい事件が過去にあったの!?」という声が上がりました。ただ、映画のなかで焦点を当てているのは、事件そのものよりも、どのようにして環境汚染が引き起こされたのかということ。


この事件は、韓国では非常にインパクトがあったので、汚染事件としてはかなり大きく取り上げられましたが、日本でも水俣病やイタイイタイ病がありましたし、アメリカでもミシシッピ川の汚染などがありましたよね。つまり、こういった事件というのは、国や年代を問わずどこでも起きていることなのです。そして、いずれも初期段階の無知がきっかけとなっているところも、注目すべき点だと改めて感じました。


―確かにそうですね。今回、劇中で描かれている女性社員たちの様子は、当時の日本でも同じような状況だったと思います。1990年代と現代を比べると、改善された部分は多いですが、いまの女性たちの働く環境についてはどう感じていますか?


監督 映画でもあるように、昔は女性たちが雑用をしたり、コーヒーを入れたりと男性たちを助けるような仕事ばかりしていましたよね。でも、いまの若い女性たちはそういった過去を知り、「どうしてこんなことがありえるの?」と怒っていたようです。私はその様子を見たときに、だいぶ昔とは変わったんだなと感じていました。


とはいえ、そのいっぽうで「いまでもまだ変わっていないところがある」という見方があるのも事実かなと。ただ、明らかな違いがあるとすれば、働く女性たちに何か問題が起きたとき、昔ならひとりで抱え込んでしまったり、周りも見て見ぬ振りをしてしまったりすることがありましたが、いまはそれを改善していこうと声を上げられる状況になったのということではないでしょうか。それは、昔と大きく変わったところだと思っています。

コ・アソンさんは共感力と表現力に秀でた人


―主人公のジャヨンは、親近感の持てるおもしろいキャラクターでした。今回、コ・アソンさんを起用した理由について教えてください。


監督 私はあまり多くの俳優たちと交流があるわけではないのですが、コ・アソンさんに関しては、以前からたまたま面識がありました。そのなかで受けた印象は、彼女には相手のことを思いやる力があり、共感能力に優れたすごい人だなということ。それに加えて、俳優としての表現能力も秀でている方だと思っています。


そして何より、彼女の大きな目に見られていると、「間違ったことをしてはいけないのではないか」と思わずにはいられないところがすごいなと。そういったことが決め手となりました。


―そのうえでどのような演出をしましたか?


監督 まず、コ・アソンさんが言っていたのは、ジャヨンとは決して自分に自信があるわけではないけれど、自己肯定感の強い女性ではないかということ。そういった要素を踏まえたうえで、私たちがたどり着いたのは、正義感にあふれている女性ではあるが、ただ怒っているのではなく、「どうしてこんなことが起こるのだろうか?」と考えている姿を描くことでした。


本当はやりたくないかもしれないけれど、自分がやるしかない状況に追い込まれることで、平凡なジャヨンが立ち上がってヒーローのようになっていくさまを見せたいなと。そのうえで、親しみやすいキャラクターに見えるようにも意識しています。コ・アソンさんとは、そういったキャラクター作りに関するポイントについて、準備段階でたくさん話し合いました。

イ・ソムさんのツンデレなところがハマると思った


―ユナ役のイ・ソムさんは、監督が俳優として出演した『青い塩』で10年前に共演されていたそうですね。そのときから「いつか自分の作品に出てほしい」とお考えだったのでしょうか?


監督 共演をしたあと、イ・ソムさんと特にやりとりがあったというわけではありません。ただ、『青い塩』の現場で印象に残っている出来事があるとすれば、ある朝、ヘアメイクを一緒にしてもらったときのこと。当時の私はマネージャーもおらず、車の免許も持っていなかったので、次の現場までどうやっていこうか悩んでいました。


そしたら彼女が現場にはどうやっていくのか聞いてきたので、「適当に行きますよ」と答えたら、自分の車に乗って行くことを提案してくれたんです。そのときは、本当にありがたいと思いました。ただ、そのお返しとして今回キャスティングしたわけではありませんよ(笑)。


―(笑)。では、決め手となったのは?


監督 今回、シナリオを書いているときに、助けなさそうな素振りをしながら結局助けるユナのキャラクターを書いていて、イ・ソムさんのイメージと重なると思ったからです。というのも、10年前に車に乗るように誘ってくれたとき、実は彼女の言い方は親切そうにというよりも、どちらかというと冷たく突き放すような感じだったので(笑)。そんなふうに、彼女にはツンデレなところがあるので合うと思いましたし、実際に彼女の演技は素晴らしいものでした。

10代の頃から日本の小説が好きで読んでいる


―みなさん、非常にハマり役だったと思います。本作では、人々の中にある“ファイト”を描いているということですが、監督自身が困難に立ち向かうとき、支えになっている言葉はありますか?


監督 せっかく日本のみなさんにお話をするので、日本に関連したエピソードをひとつ。以前、読売ジャイアンツで野球選手として活躍していたイ・スンヨプさんのインタビューでの言葉で、印象に残っているものをご紹介したいと思います。


彼は日本に行ったあと、スランプに陥っていたのですが、あるときサヨナラホームランかヒットを打ち、インタビューを受けていたのです。そこで、「どうやってこのスランプに打ち勝ちましたか?」と質問されたとき、「ホームランを打てなければヒットを打てばいい。ヒットが打てなければ守備をしっかりやればいい。試合に出られなければベンチで応援をすればいい。とにかく、自分がいまできることに最善を尽くせばいいのです」と答えていました。いまでも、その言葉は私の大きな力となっています。


―素敵な言葉ですね。ちなみに、監督は日本の文化から影響を受けていることもありますか?


監督 私は10代の頃から日本の小説が好きで、いまでもよく読んでいますよ。たとえば、太宰治や松本清張、村上春樹などの作品が好きですね。もちろん日本映画も好きで、実は今回の作品のなかでも自己紹介をする場面では、自分でも無意識のうちに岩井俊二監督の『四月物語』を意識していたことに撮り終わってから気がつきました。それから、シナリオを書いていたときには、益田ミリの『OLはえらい』という漫画を参考に読んでいたこともあるくらいです。


―そのあたりは、意識しながら観たいポイントですね。では、観客へメッセージをお願いします。


監督 本作で描いているのは、生きていくなかで直面する大小さまざまな問題を諦めず、文句を言わずに解決しようとする人々の物語。「はたして、こんなことで世の中は変わるのか?」と考えながらも、自分を守るために前に進んでいく人たちの話を作りたいと思いました。「たとえ小さな存在でも、私たちは偉大なのだから」という信念とともに、自分の仕事に責任感と誇りを持った彼女たちの姿を楽しく、かっこよく描いたつもりです。彼女たちの堂々と、そして凛々しく突き進む姿をぜひご覧ください。

諦めずに声を上げる大切さを知る!


ひとりずつが持つ力は小さくても、知恵と勇気さえあれば、大きな力を生み出すことを教えてくれる本作。不可能を可能に変えてしまう爽快な女性たちの生き方と言葉に、上を目指すことの喜び、そして「自分がやらなきゃ誰がやる!」と明日からの活力をもらえるはずです。

取材、文・志村昌美

痛快な予告編はこちら!


作品情報

『サムジンカンパニー1995』

7月9日(金)シネマート新宿ほか全国順次ロードショー

配給:ツイン


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2021年07月07日 19時00分

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