スマホなしで“文通”の恋愛物語... 岩井俊二「最新作」の主題は?

2020年01月13日 21時00分

エンタメ anan

純粋な憧れ、身を焦がす情熱、果ては嫉妬や怒りまで。映画の中のロマンスには、その時代を生きた人々の“愛の価値観”が透けて見えます。2020年を生きる映画の創り手たちは、現代の恋を一体どう捉え、描こうとしているのか。岩井俊二監督にお話を伺いました。

岩井俊二監督が想う、現代の“恋の行方”。



『Love Letter』『スワロウテイル』など、数々の名作を手がけてきた岩井俊二監督。最新作『ラストレター』では、現在と過去の回想シーンを行き来しながら、手紙の行き違いをきっかけに生まれた2つの世代の恋愛を描く。姉・未咲の葬儀の場で、彼女の娘・鮎美(広瀬すず)から、未咲宛ての同窓会の案内を受け取った裕里(松たか子)。姉の死を知らせるために同窓会へ出かけるが、本人だと勘違いされたうえ、初恋の相手である作家の鏡史郎(福山雅治、回想・神木隆之介)と再会。彼が姉を今でも想っていることを知った裕里は、本当のことを言い出せないまま、文通をし始める。


奇跡の邂逅が、現代でも意外と起こるかもって思ったんです。


スマホの時代である今、作品に手紙を持ち込んだのは、“手紙を使わない時代に手紙しか使えなくなったら…”という、SF的な意味で面白い話になりそうだと思ったからです。主人公の裕里が夫にスマホを壊されて、初恋の相手と手紙でしか連絡が取れなくなるというアイデアを思いつき、この作品が始まりました。人の関係がアナログだった時代は、ふいに“あの人は元気でやってるのかな”と思っても、遠い昔を眺めるように思うしかできなかった。それが、今は、検索したら情報が出てくるし、人との関係がタイムライン上に並ぶような時代。そんな究極の人間関係のありようになった今でも、今作のように奇跡の邂逅みたいなことが、時にあっさり起きてしまうんじゃないか。そして、そんな出来事に対して、みんな意外に無防備かもしれない、という僕のイメージが作品には描かれています。


でも、実現できたからこそ言えますが、あらためて、手紙は素敵なものだという実感がありました。書いたり読んだりしている佇まいには奥ゆかしさや雰囲気があるし、人が手をかけて字を書くという行為も含めてですが、伝わるぬくもりとか、いろいろなものが違います。スマホのほうがよほど高級品だし、手紙は紙切れなのに、なんともすごい、秘めたるパワーがあります。


裕里の姉である未咲の葬儀のシーンから始まる本作には、未咲を一途に想っている鏡史郎が、彼女を死へと追い込んだ元恋人の阿藤陽市(豊川悦司)に会いに行き、ののしられる場面がありますが、それこそが今作で描きたかった核心部分です。25年前に撮った、悪い人が出てこない『Love Letter』にはない唯一の部分であり闇の部分です。当時、僕は30歳くらいで、中学時代を眺めるのに15年しか経っていない。でも、今回はそこから25年が経ち、その間、物作りや小説を書く立場として過ごした時間は、僕にとって決して簡単なものではありませんでした。出会った人とうまくいかないこともあるし、昨日今日のわだかまりではない、カオスのようなものを抱えていたりする。そんなことがありながらも、物作りや仕事を続けることに果たして意味があるのかどうか。そんな自分を、夢や恋愛を一途に追い続けた結果、阿藤にののしられてしまう小説家の鏡史郎に重ねています。


実は、劇中に登場する鏡史郎が書いた『未咲』という小説を、映画を撮る前に書きました。その内容は物語に出てこないけど、今作のバックストーリーとして存在しています。そんなふうに最近は、全体がどういう世界になっているかというのを、まずはゲーム感覚でとにかく書き溜めておき、最後に“こんな話だ”と切り取る作り方をしています。映画だから2時間で収まるように作るのは、植木鉢に土を盛って花を咲かす行為というか…。2時間のためだけのカロリーでやろうとすると、その後、本が完成しなくて苦しくなる。やっぱり、大地に種をまいて作るほうがいい花が咲くだろうし、そこをケチると根も株も小さくなるから、惜しまないほうがいいわけです。『ラストレター』も、『未咲』という物語を苗床にして、大きくして、自分で納得しながら作りました。使わなかったエピソードは他の作品で使うこともできるし、どこが採用されるかわからない、“使わないかもしれない”と思いながら書くお話は、責任がなくて超楽しいですね(笑)。自由に、のびやかに書けるので、そのやり方は悪くないと思い、今、実験中です。そんなふうに、一番いいゾーンに自分を入れるにはどうすればいいのかと、常に試行錯誤しています。


以前は、書きつつ、検証しつつ、分析しつつということをしながら作っていました。たとえば『Love Letter』と『スワロウテイル』は、“わざと同じ構造式を使って作るとどうなるんだろう”と思い、実験的に作りました。そう言うと難しく聞こえるのですが、年末に放送している『SASUKE』というゲームだと思ってもらえたら。あの仕掛けを、『Love Letter』というものを背負った人と、『スワロウテイル』というものを背負った人が走ると考えてください。クリアしていくものは同じだけど、出来上がる作品は違うんです。その気で観ると、登場人物の数だとか、ドタバタが起きたり、静かになるタイミングがよく似ていますから。 でも、最近は、先に述べたように、とにかく、ドキュメンタリー作品のように素材をたくさん撮る。素材がたくさんあればあるほど、フォーミュラで悩まなくていいと思うようになりました。今作では描かれなかった小説の『未咲』も、その部分だけを切り取って、一つの映画にしてみたいですね。『ラストレター』とは違う青春物語が作れるだろうし、鏡史郎があそこまで一途に未咲に恋をした理由が、ようやく、わかると思います。


どんなに素晴らしい恋もいずれは変化するもの。



学校のヒロイン的な存在である未咲と、彼女に想いを寄せる鏡史郎(回想・神木隆之介)。彼の文才を知った未咲は、この階段のシーンで、とある大事なお願いごとをする。



同じ部活に入った鏡史郎に、密かに片想いをしている裕里(回想・森七菜)。彼が姉の未咲に一目惚れしたことを知り、ラブレターを書いて想いを伝えることを提案する。



夫の勘違いと嫉妬によってスマホを壊されたことをきっかけに、手紙のやりとりを始めた裕里と鏡史郎。しばらく文通を続けていたが、ある時、鏡史郎が会いにやってくる。©2020「ラストレター」製作委員会


岩井俊二監督 1963年1月24日生まれ、宮城県出身。‘93年のドラマ『打ち上げ花火、下から見るか?横から見るか?』(映画版は‘95年公開)が日本映画監督協会新人賞を受賞。‘95年に初長編作品『Love Letter』を発表。以後、『スワロウテイル』『四月物語』『花とアリス』『リップヴァンウィンクルの花嫁』などを発表。美しい映像、奇想天外ながら心を動かす物語など唯一無二の世界観で知られ、“岩井美学”という言葉も生んだ。今作は1月17日より全国公開。


ジャケット¥142,000 Tシャツ¥46,000(共にYOHJI YAMAMOTO/ヨウジヤマモト プレスルーム TEL:03・5463・1500)


※『anan』2020年1月15日号より。写真・野呂知功(TRIVAL) スタイリスト・申谷弘美 インタビュー、文・重信 綾


(by anan編集部)


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