中東問題にまさかの展開...和解に必要だったのはユーモアだった!?

2019年11月21日 19時50分

エンタメ anan

いまやあらゆるニュースソースから世界中の情勢をリアルタイムで知ることができますが、それでも日本人にとってなかなか理解が難しいもののひとつが中東問題。そこで今回は、ユーモアを交えつつ、現地のリアルを垣間見ることができる話題作をご紹介します。それは……。

世界が絶賛する『テルアビブ・オン・ファイア』!


【映画、ときどき私】 vol. 277


パレスチナの人気ドラマ『テルアビブ・オン・ファイア』の制作現場で、言語指導として働いていたパレスチナ人青年のサラーム。エルサレムに住んでいたため、ラッマラーという地区にある撮影所に通うには面倒な検問所を毎日通らなければならなかった。


そんなある日、イスラエル軍事司令官であるアッシに呼び止められたサラームは、ドラマの脚本家であると嘘をついてしまう。妻がドラマの熱狂的なファンであったこともあり、アッシはサラームを呼び止めては、強引にアイディアを出し、脚本に入れるように迫るのだった。その結果、脚本家に出世したサラームだったが、イスラエルのアッシとパレスチナの制作陣の間で板挟みとなってしまうことに。はたして、ドラマの結末はどうなるのか……。

本作はヴェネチア国際映画祭のInterFilm部門での作品賞受賞をはじめ、世界各国の映画祭でさまざまな賞に輝いている注目作。そこで、本作を手がけたこちらの方にその舞台裏を語っていただきました。

監督・脚本を務めたサメフ・ゾアビ監督!


イスラエルのナザレ近郊にあるパレスチナ人の村で生まれたゾアビ監督。「インディーズ映画界の新しい顔のトップ25」のひとりに選ばれたこともある実力派の映画作家です。今回は、自身の経験や作品に隠された思いについて教えてもらいました。


―イスラエルとパレスチナが長年抱えている問題をコメディで描くというのは大きな挑戦だったと思いますが、不安はありませんでしたか?


監督 おもしろいとかおかしいというのは主観的なものなので、自分が笑っていても他人にはウケないこともありますよね。だからこそ、今回は執筆する段階からチャレンジだと思っていました。


実際、その不安な気持ちは最後の最後まであり、ヴェネチア国際映画祭でプレミア上映をするときまでその思いは抱えたままでしたが、観客のみなさんがずっと笑っている姿を見て、ようやくお墨付きもらえたなと感じました。


―監督にとっても、それほどまでにこの作品には挑戦的な意味が込められていたんですね。


監督 そうですね。ただ、私としてはこの作品をコメディにしようという意識で演出はしておらず、どちらかというと、ドラマを撮っている感覚でした。なので、俳優にもおもしろくしてほしいと指示を出したことは1度もありません。


それどころか、逆にもっとリアルに演じてほしいと伝えたほどです。なぜなら、真剣に演じるほど、おもしろい要素というのは増していくものですから。そんななかで、唯一私がこの作品に確信を持てた瞬間は、編集を担当してくれていた女性が作業をしながらずっと笑っていたときですね。そこで安心することができたと思います。


―各地で上映するようになってから、国によって観客のリアクションに違いはありましたか?


監督 意外とそれはなかったですね。ベルギーの北のほうで開催された映画祭で上映したときも、「みんな控えめだからあまり笑わないかもしれませんよ」とスタッフから事前に言われたので、私も最初は警戒していましたが、その人も驚くくらいかなり盛り上がって笑いが起こったんです。


「パレスチナのことを扱っている話だから笑ってはいけない」と思っている人もいますが、誰かひとりが笑いだしたらそれが感染して、たがが外れるみたいなところはあるのかもしれません。

脚本家の役には自分の経験も含まれている


―そういう意味では、日本人にもそのおもしろさは十分に伝わると思います。ちなみに、脚本家を目指す青年サラームにご自身を重ね合わせている部分もあると思いますが、周りに振り回されて、ストーリーを変更したこともありますか?


監督 もちろんありますよ(笑)。たとえば、今回の作品でも劇中でフランスから女優が来た設定になっていますが、実はこれもヨーロッパからの資本を得るうえで、ヨーロッパの俳優を起用しなくてはいけなくなり、あのような形になりました。


最初はあの役には別の女優を考えていましたが、差し替えることとなったので、実際にそういうことが起きているわけです。あとは、プロデューサーが言ったことが翌日の脚本に反映されるということもありましたね。

―実際にそういうこともあったんですね。また、日本にはないもので興味深いのは、劇中にたびたび登場する検問所のシーンですが、監督自身も何かトラブルを経験したことはありますか?


監督 私もこれまでに何度も検問所を通っていますが、誰かが自分を支配するというか、自分でコントロールできない状況に陥るという感覚はありますね。親に「こうしろ!」と指図されるだけでもイラっとくるのに、赤の他人に自分の行動を左右されるわけですから。ただ、そういうふうに侮辱的なことをすること自体が検問所の存在理由でもあると思います。そういったことをずっと人に課して、意志を砕くというのが目的なんですよね。


―何も悪いことをしていなくても、検問所を通るときには緊張が走るものですか?


監督 そうですね。なぜなら、イスラエルでは「パレスチナ人を人として見るな」と訓練をされた兵士が派遣されていることがありますから。つまり、彼らは「パレスチナ人=テロリスト」のように思っているところがあり、世界を自分たちの見方だけで見ているところがあるのです。

伝統料理「フムス」に込められた思いとは?


―なるほど。そのほかに本作で重要な役割をはたしているのは、「フムス」というひよこ豆をすりつぶしてさまざまな調味料を加えてペースト状にしたアラブの伝統料理。パレスチナ人にとって、フムスはどのようなものですか?


監督 私たちは朝食やブランチに食べることが多いですね。しかもフムスは腹持ちがいいので、10時から12時くらいの間に食べて、お昼寝をするのがベストです(笑)。


―みなさんは毎日食べているのでしょうか?


監督 いまはイスラエル人のほうがフムスにすごくハマっていて、毎日夕飯に食べているようです。でも、私たちパレスチナ人からすると「夕飯に食べるのはちょっと……」という感じですけどね。


―数ある料理のなかで、監督がフムスを選んだ理由は何ですか?


監督 フムスというのは、私たちにとっては政治的な意味も含まれていると思います。かつては、近隣のアラブ諸国に認められるために「いつか一緒にフムスを食べましょう」という平和の象徴のようなところもありました。ただ、いまとなってはそれも幻想に終わっているかもしれませんが……。


それに、いまやフムスもイスラエルの物として盗まれてしまったほど。アメリカでは「イスラエルフムス」としてブランド化して売っているくらいなんですよ。

―そうなんですね。そんなふうに日本人にとっては、この作品でイスラエルやパレスチナのことを知るきっかけにもなりますが、逆に監督は日本に対してどのような印象がありますか?


監督 私が一番驚かされたのは、去年映画祭に参加するために来日したとき、自分のスケジュールを見たら、「ホテルのロビーに9時43分に集合」と書かれているのを見たとき(笑)。中東だと分刻みで指定することはないので、びっくりしました。


―(笑)。つまり、日本人は細かすぎると感じたということですか?


監督 そういうわけではないですが、私たち中東の人間にとってはおもしろいことですよね。私たちだったら、「だいたい10時くらいに集合で」という感じで伝えますから。そうすると、10時5分に来る人もいれば、15分の人もいるし、人によっては10時30分とか、ひどい人だと11時に来る人もいると思いますよ(笑)。

文化的にユーモアが刷り込まれて育った


―ということは、遅れても気にしない国民性なのでしょうか?


監督 それも受け入れますね。もし、遅れて来た人に誰かがイライラしていたら、「ドイツ人にでもなっちゃったの?」みたいな冗談を言い合っているくらいです。そんなふうに、文化的にパッと言葉を切り返す訓練がされているので、日常に脚本になるようなネタがあふれているんですよ。


特に私が子どものころはまだエアコンがなかったので、みんなバルコニーで過ごしていましたが、そうすると外を歩いている知らない人にまで話しかけて、からかったりするんです。そのおかげで、私にもそういう部分が刷り込まれているとは思います。


しかも、私は9人兄弟の末っ子。5人の姉と3人の兄がいて、一番上の兄は父親にもなれるくらい歳が離れているので、いろいろな年代の人と過ごしたことで、さまざまなユーモアが身につきました。

―そういった環境で鍛えられたセンスが、映画作りにおいても活かされているのですね。


監督 ただ、カンヌで注目されて以降、政治的な作品を毎回期待されてしまうので、いまは「ただ有名になりたいから」とか「お金持ちになりたいから」といった単純な気持ちで映画を作ることができなくなってしまいました(笑)。


―では、そのなかで映画作りを続けている理由は何ですか?


監督 実は私も同じ質問を自分に問いかけているところなんですよ。というのも、映画を作るときは、自分を後押しする情熱や何かが必要なものだと思っているからです。ただ、いまはいろいろなオファーを受けているので、そういう立場を楽しんでいる感じもあります。

次は日本を舞台に撮る可能性もあるかもしれない


―そんななかでも、次のテーマとして考えていることがあれば教えてください。


監督 せっかくなので、次は自分の出自にまったく関係のないハリウッドで作ってみたいとも思っています。あと、長年のアイディアとして持っている企画は、主人公がパレスチナ人でも政治色のないコメディに徹した作品。以前、高校時代の友人の結婚相手を探しにNYに行くというドキュメンタリーを撮ってフランスのテレビ局で放送しましたが、それをフィクションにして作りたいと考えています。すぐには実現できないと思いますが、機が熟せばいつかは撮りたいです。


ちなみに、NYでは仲介業者などを使ってもうまくいきませんでしたが、撮影の2年後にその友人は結婚することができました。ただ、最近会ったら離婚することになったと言っていたので、また次を探さないといけないんですよ(笑)。


ちなみに、ちょうど日本のデート事情や婚活の文化を聞いて興味を持っているところなので、次は日本バージョンを作るものいいかもしれません。外から見るとおもしろいこともあるので、また日本には戻ってきたいと思います!


―私もぜひ参考にしたいので、お待ちしております! 

笑いは民族の対立さえも乗り越える!


ニュースでは知ることができないイスラエルとパレスチナの関係性に触れることができる本作。中東の背景に詳しくなくても、誰もが純粋に楽しめる作品は必見です。ブラックユーモア満載の“笑撃”とともに味わってみては?

まさかの展開を見せる予告編はこちら!

作品情報

『テルアビブ・オン・ファイア』

11月22日(金)、新宿シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか 全国順次公開

配給:アット エンタテインメント

© Samsa Film - TS Productions - Lama Films - Films From There - Artémis Productions C623

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2019年11月21日 19時50分

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