“身体の相性”は回数が大事? 直木賞作家・白石一文のセックス観

2019年08月15日 19時30分

エンタメ anan

兄と妹のように育ち、ある時期には濃厚な身体の関係もあった賢治と直子。直子の結婚式が10日後に迫る時、久しぶりに故郷で再会した二人の間で、再び禁忌的な欲望が疼きだす――直木賞作家、白石一文の小説『火口のふたり』が映画化された。原作者の白石一文さんへのインタビューをお届けします。

明日死ぬという時にセックスを望む。

それが、人間が本来持つしぶとさ。


『火口のふたり』を書いたのは東日本大震災の翌年、2012年です。年明けに富士山が噴火する夢を見たんですよ。その頃は実際に、今後最大余震がきて富士山に連動するんじゃないかと言われていました。それで、夢から目覚めた後なぜかふと、自分がそれを小説に書いたら、噴火が少し遅れるんじゃないかなと思ったんです。それで富士山の写真集をめくりながら、一気呵成に書いたんですね。


その時に考えたのは、明日若くして死ぬかもしれないとしたら、何がしたいか、ということでした。やっぱり好きな人とのセックスに勝るものはないんじゃないか。むしろ、それくらいしかないんじゃないか。そう思いました。


生命って、絶滅の危機に瀕した時にしぶとくなる。人為的ではない、不可抗力の自然災害があった時に、自分にはないと思っていたしたたかさが出てくる。それに、死ぬかもしれないという恐怖心と生殖行為って繋がっていると思うんです。知り合いの漢方の先生が、不妊に悩んでいる人に「子供が欲しかったら食事を減らせ」って言っていたんですよ。飢餓状態を作って生命の危機を身体に感じさせたほうが、子供ができやすくなるってことですよね。頭の中であれこれ考えることとは別に、身体にも身体の言い分がある。


この小説の中に何度も「身体の言い分」という言葉が出てきます。<男の悦びには言い分と呼べるほどの「身体の言い分」などありはしない。我が身から真実の声を聞くというのは女性だけの特権なのだろう。>という文章も書きました。実際、男の人は自分の身体のことをあんまり意識していないんですよ。性衝動はあるけれど、それはスイッチが入るというだけの話。若い時は自分の意思に関係なく、そのスイッチが入りっぱなし。性欲に身体が翻弄されている感覚なんです。男の人にとって性器って、身体の一部というか、単なるアタッチメントなんですよ(笑)。女の人みたいに身体の中に根差した感覚はない。


男は単純な機能しかなくて、それに女の人が合わせてくれている感覚がありますね。女の人のほうが、入った大きさに合わせてくれるというか、身体を合わせてきてくれる。ただ、僕に言わせると、だからといって女の人が男の身体を憶えていてくれるわけじゃないんですね。むしろ男のほうが女の身体を憶えている。作中、直子に「私は、賢ちゃんの身体をしょっちゅう思い出してたよ」と言わせましたが、あれはわざと男女逆を書いたんです。


男の人が女の人の身体を忘れないのは、反応があるからでしょうね。男の性欲って支配欲も込みだから、彼女の反応も憶えている。僕の個人的経験で言うと、女の人ってセックスしているときれいになるんですよ。その最中も、その期間も、全部。「えっ」と思うような表情をして、輝くように見える時期がある。男はそういうのを見ているんです。


身体の相性なんて、回数を重ねていくと良くなっていく。だから、若い時は「この人と添い遂げようと思う相手じゃないと駄目だ」などと思わずに、惹かれる相手と集中的にセックスしておくのもいいと思う。もちろん、相手は誰でもいいわけじゃない。濃密な精神的な交流がないと快楽も深まらない。お互いが一緒にいる一定の理由が必要になる。賢治と直子は一度別れた後で再会しているし、従兄妹同士という血の繋がりもある。しかも一緒にいられる時間には限りがある。期間限定セックスだから、彼らは集中する。それがしぶとさだと思う。 


たとえばセックスレスの夫婦だって、下地はあるのだから、どこかで切り替えればまたいいセックスができるようになるんじゃないでしょうか。セックスって、男女で作り上げていくものなんですよ。挿入するだけが性行為じゃないんです。射精をどうデコレートするかが問題。動物の行為なんて超つまらないでしょう? 猫なんて、痛いらしい。人間みたいにセックスを楽しむ動物って他にいないのでは。なぜかというと、人間だけがセックスをデコレートするから。


若年層の性欲低下なんて話もありますけれど、それはデコレートする方法が分からないから。他にも楽しいことがたくさんあって性欲の優先順位が低くなって、身を入れていないから。セックスって、実は読書と一緒なんですよ。一定程度の本を読まないと読書の楽しさが分からないように、セックスもある程度のレクチャーが必要なんです。


試写で完成品を観ました。賢治と直子の年齢設定が原作よりも若くなっていたけれど、観客にとってはそのほうが見栄えもいいから良かったなって。かつて関係のあった好きな女の人がいて、その人と血の繋がりがあって、追い詰められて田舎に帰った時にその人がいてくれたら、男はやっぱり、たまらない。映画という形になって具体的に二人が絡んでいる姿を観て、改めて、自分はいい小説を書いたなと思いました(笑)。


しらいし・かずふみ 作家。1958年生まれ。出版社に勤務していた2000年、『一瞬の光』を刊行しデビュー。‘09年に『この胸に深々と刺さる矢を抜け』で山本周五郎賞、翌年『ほかならぬ人へ』で直木賞受賞。


『火口のふたり』 かつて愛し合った二人が再会。快楽を求める身体の言い分に従って、5日間だけという約束のもと身体を重ねていく。「世界が終わるとき、誰と何をして過ごすか?」。その問いに対する答えを突き付けてくるような作品。R18+。監督・脚本/荒井晴彦 原作/白石一文 出演/柄本佑、瀧内公美、柄本明(父の声) 8月23日より新宿武蔵野館ほかにて上映。


公開に合わせ、フォトストーリーブック『あの頃の「火口のふたり」』を刊行。同書には白石一文が書き下ろしたスピンオフ短編も収録。また、8月10日~9月8日、新宿・B GALLERYにて、野村佐紀子 写真展「火口のふたり」も開催。


※『anan』2019年8月14-21日合併号より。写真・野村佐紀子 取材、文・瀧井朝世


(by anan編集部)


anan

2019年08月15日 19時30分

エンタメ anan

BIGLOBE Beauty公式SNSはこちら!

最新記事はここでチェック!

タグ一覧

ヘアアレンジ スタイリング 時短アレンジ術 簡単アレンジ術 前髪 人気ヘアカラー まとめ髪 ショートヘア ボブ ミディアムヘア ロングヘア ストレートヘア パーマヘア ポニーテール お団子ヘア ヘアアイロン活用 ヘアケア シャンプー 髪のお悩み 流行ヘア モテヘア カジュアルヘア オフィスヘア ヘアアクセサリー バレッタ ターバン ヘアピン・ヘアゴム 小顔ヘア セルフネイル ジェルネイル 上品ネイル ピンクネイル カジュアルコーデ シンプルコーデ ナチュラルコーデ プチプラコーデ フェミニンコーデ コンサバコーデ ガーリーコーデ モテコーデ ベーシック ゆったりコーデ ママコーデ ストリートコーデ モードコーデ ギャル 結婚式コーデ ミリタリー モノトーンコーデ カラーコーデ スポーツMIXコーデ パーティスタイル ヘビロテ 着回し抜群 トップス アウター カーディガン シャツ ワンピース ビスチェ パーカー フーディー コート トレンチコート カラージャケット スカート フレアスカート タイトスカート ミニスカート デニムスカート ガウチョパンツ ワイドパンツ ワイドデニム スキニーパンツ バギーパンツ 靴下 タイツ スニーカー サンダル ミュール ニューバランス ブーツ ショートブーツ パンプス 帽子 ニット帽 ベレー帽 スカーフ グッズ メガネ ベルト 腕時計 ピアス トレンドアイテム バッグ ファーバッグ クラッチバッグ リュック ショルダーバッグ チェック柄 グレンチェック 刺繍 ファー ロゴもの コーデュロイ デニム 色気のある格好 花柄 ボーダー柄 レイヤード パンツスタイル ドレススタイル ニット スウェット anan表紙 雑誌付録 ユニクロ GU しまむら ZARA メイク術 スキンケア クレンジング 化粧水 美容液 オールインワン 美白ケア 毛穴ケア 眉毛ケア コンシーラー ファンデーション マスカラ アイシャドウ リップ 乾燥対策 ムダ毛ケア バストケア ヒップアップ マッサージ エクササイズ ダイエット ヨガ 動画レシピ サラダ カフェ巡り スタバ ひとり旅 女子旅 パワースポット巡り 人気スポット 絶景スポット 絶品 お弁当 スイーツ パン 占い 心理テスト 結婚 浮気・不倫 モテテクニック スピリチュアル 恋愛お悩み 男性心理 デート 恋愛テクニック ドン引き行動 LINE体験談 ホンネ告白 胸キュン 片思い カップル話 婚活 倦怠期 ファッション恋愛術 プチプラ おしゃれマナー マネー お仕事 家事・育児 趣味 アプリ 癒し 大人女子 金運 ミュージック アニメ・漫画 アウトドア 清潔感 インスタ映え イメチェン パンチョとガバチョ ナイトブラ 脱毛 置き換えダイエット ケノン 痩身エステ

本サイトのニュースの見出しおよび記事内容、およびリンク先の記事内容は、 各記事提供社からの情報に基づくものでビッグローブの見解を表すものではありません。
ビッグローブは、本サイトの記事を含む内容についてその正確性を含め一切保証するものではありません。 本サイトのデータおよび記載内容のご利用は、全てお客様の責任において行ってください。
ビッグローブは、本サイトの記事を含む内容によってお客様やその他の第三者に生じた損害その他不利益については一切責任を負いません。