直木賞作家・島本理生 結婚は予習もできないスリリングな経験...

2019年01月12日 19時00分

エンタメ anan

中学生の頃から小説を書き始め10代でデビュー、現代女性の恋や生きづらさをさまざまな作品で表してきた作家、島本理生さん。昨年はエンタメに振り切った『ファーストラヴ』で見事直木賞を受賞した。新たな年を迎え、感じていることは。

――2018年は直木賞受賞という大きな出来事がありましたが、受賞後、何か変化はありましたか。


受賞した後はしばらくラジオやテレビといった人前に出る仕事が多くて、執筆がストップしていました。でも久々に新しい小説を書き始めたら、主人公の女性像が前とちょっと違うなと感じて。今までは「不安定で繊細なところが特徴の女性を書く」と言われていたし、自分でも読み返した時にそう感じていましたが、今書いている女性は一回り強くなっているというか、大人の女性としての輪郭が濃くなったと感じたんです。


――ご自身がそうなったから?


そうだと思います。自分の人生全体を考えた時はあまり賞って意識していなかったのですが、受賞してみて、これは自分の人生の方向性を左右することなんだなと思いました。もしもっと若い時に大きな賞をいただいていたら書くものも変わっていたかもしれません。作家であることは自分の軸なので、私生活も違ったと思います。もし、あのタイミングで受賞していたら、その後あの人と恋愛していなかっただろうな…とか(笑)。


――あはは。島本さんは作家の佐藤友哉さんと結婚して離婚して、再婚されていますよね。そうした出来事も作家という軸があっての判断だったのでしょうか。


最初に結婚した時は、『ナラタージュ』が話題になったことで急に仕事が忙しくなって、いろんなことが自分一人では背負いきれなくなっていたんです。その救いを私生活に求めたんですね。それで結婚すればすべて解決するかと思ったら、まったくそんなことはありませんでした(笑)。結局、自分で背負わなくてはいけないものは、他の人だって背負えないんですよね。それに、最初に結婚した20代前半の頃は、愛情とはまた別に、性別が違うと理解しあえない部分だってあるということも分かってなかった。それで、理解されないのは相手の愛情が足りないと思ってしまっていたんです。


――逆に、自分は相手を理解していると思っていました?


若さゆえの万能感で、そう思い込んでいましたね(笑)。それだけ純粋だったのかもしれないけれど、一方で自分に余裕がなくて、相手に求めるものが多かった。結婚って、基本的には1回きりで、しかも、何も予習できないですよね。みんな、なんてスリリングなことをしているんだろうって思います。


離婚して数年経って、自分が作家であることをあそこまで理解してくれる人は他にいないと実感して、同じ相手と再婚しました。2回目は1回目の反省を振り返りながらしたような気がします。


――人生の軸が作家であることが再婚の決断にも繋がったんですね。人生の軸がまったくブレない。


私は本を読むことで救われてきましたし、デビュー後は書くことに助けられてきたなと思います。何かに傷ついたりショックを受けた時も、書くことで気持ちが整理されたし、そこに共感してくれる読者がいることにも、ものすごく助けられています。



――理解ある夫もいてお子さんもいて、直木賞も受賞して。今、とても充実しているように思えます。


受賞直後は嬉しくて、目の前の忙しさに追われていましたが、受賞してからちょっと時間が経つと、今度は「新しいものを生み出してない」という空虚感や焦りが出てきました。何も書いていない時はいつも「このまま何も浮かばず何も書けなかったらどうしよう」と思います。受賞後一段落してからは、「次の話はどうしよう」ということばかり考えていました。どんなに依頼やテーマの提案があっても、自分の中で書きたいという衝動がないと何も浮かばないんです。だから、書きたいという衝動がある時が幸せですね。


――中学生の時から小説を発表し始めた島本さんですが、スランプや、「書きたくない」と感じたことはなかったのですか。


20代の頃、自分の技術が足りなかったり、仕事の多さをコントロールできないストレスがあって、書いても書いてもしっくりこない時がありました。小説の最後の一行が全然決まらない、とか。あの時は一番きつかったですね。


――それをどうやって乗り切ったのでしょうか。


サイン会で、読者の方々にはっきりと「次はこういう小説が読みたい」と言われたんですよね。それは暗に「最近書いているものはちょっと違う」という意味だなと思って。その時は、「もっと人と人が響きあう小説が読みたい」と言われて、「ああ、そういうものが求められているのか、それを書こう」と思いました。自発的な衝動がないと書けないと言いつつ、そんなふうに自分の小説に今何が欠けているか、何を書いていないかに人に気づかせてもらって、新しい衝動が生まれたりしますね。


しまもと・りお 1983年生まれ、東京都出身。’98年に『鳩よ!』掌編小説コンクール第2期当選、年間MVP獲得。2001年に「シルエット」で群像新人文学賞の優秀作を受賞し、デビュー。’03年『リトル・バイ・リトル』で野間文芸新人賞、『Red』で’14年度島清恋愛文学賞受賞。’05年発表の『ナラタージュ』は映画化され、累計70万部超のヒット。


最新作『あなたの愛人の名前は』(集英社)は連作短編集。一人の女性が密やかな欲望を満たすためにある治療院を訪れる「足跡」、飼い猫の視点で語られる「蛇猫奇譚」、同棲相手とは別の男性と逢瀬を重ねる女性の視点で綴る「あなたは知らない」と、相手の男性の視点から描く「俺だけが知らない」など、大人の密かな思いを描く6編を収録。


※『anan』2019年1月16日号より。写真・女鹿成二 インタビュー、文・瀧井朝世


(by anan編集部)

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2019年01月12日 19時00分

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