似合わない服を着ていると××に!? すぐ脱ぎ捨てて!|本棚ダイアリー ♯4

2017年10月31日 19時40分

エンタメ anan

3度の食事と同じくらい読書を愛するブックレビュア―の高倉優子が、心の本棚に並んだおすすめの本について綴る連載です。今回紹介するのは、数々のベストセラーを手がけた元敏腕編集者・出版プロデューサーの山口ミルコさんのエッセイ集。辛い乳がん治療を経て、「自分らしい生き方」や「がんが再発しない暮らし方」を模索することになった、彼女の心の軌跡が丁寧に描かれた1冊です。

ファッションの話ではありません! 

【本棚ダイアリー】vol.4


「やっと書けた!」。私はいま嬉しくて仕方ありません。山口ミルコさんのエッセイ集『似合わない服』(ミシマ社)が発売されて約2か月。早く感想が書きたい、みなさんに紹介したいと思いつつ、なかなか書き出すことができなかったからです。


いや、書いてはいた。けれど消しては書き、書いては消して、なかなか前に進まなかったのです。初見のときは数時間で読み終えました。「素晴らしかったなあ。もう一度、ゆっくり読みなおそう」と、再度読み始めたところ、深くて深くて……。「なんて書こう?」「この思いをどう表現しよう?」と悩んでしまい、すぐに書けなかったというわけです。


スーパー・キャリアウーマンだった山口ミルコさん

さて、本の話をする前に、山口ミルコさん(以下、ミルコさん)についてご紹介したいと思います。角川書店を経て幻冬舎へ。プロデューサー、編集者として、五木寛之さん、小川洋子さん、さくらももこさんなど日本を代表する作家をはじめ、話題のタレント本など、数え切れないほどのベストセラーを世に送り出した方。私もライターとして何度かご一緒した縁で、今でも仲良くしていただいています。大先輩にして、大好きな憧れの女性です。


ハイブランドのスーツを着て、ベンツに乗って会社へ行き、高級なレストランや料亭で接待をする毎日……。そんなブルゾンちえみばりの「スーパー・キャリアウーマン」だったミルコさんは、2009年に幻冬舎を退社します。その後、著述家として活動し始めた矢先、乳がんに罹患(りかん)していることを知るのです。死の恐怖におびえた闘病生活について記したエッセイが、第1作『毛のない生活』(ミシマ社、2012年発売)でした。


こちらは普通の「闘病記」とは少し異なり、病気と病気を患った自分を客観的にとらえた研究書のようでもあり、さらに「会社員(スーパー・キャリアウーマン)」という肩書や名刺を捨て、生まれ変わった女性の再生の物語でもありました。


がんが再発しない生き方を選択

『似合わない服』は、この『毛のない生活』の続編ともいうべき1冊です。といっても、単純に「がん闘病記のその後」といった内容ではなく、病気になった過去を振り返り、その本当の原因に思いを馳せ、自分の体で起きたことを社会(国内外)で起こっている事象に当てはめてみたりしている本です。こう書くとテーマが壮大に思えますが、やわらかい筆致で読みやすく、そしてどこまでも素直な文章なのが特徴です。たとえば、こんな感じ。



いわゆる「五年生存」で無罪放免になった。

しかしこの私が無罪放免などと言うのはどうかと思う。なにせ治療を途中で棄権し、薬を飲むのもやめてしまい、それから病院へ一度も行っていないのだから。経過観察さえボイコットしている。

「検査していない」と知り合いに言うと、まいど非難の嵐だ。

「検査だけは、したほうがいいよー」

みんなそう言ってくれるが、検査してまた何か見つかったらどうするのだ?

あの辛かった治療のプロセスを思い出すとそれだけで吐きそうである。

(同書3章「五年後、」より抜粋)


決してがんから逃げているわけではなく、二度と病院で辛い治療を受けたくないからこそ、「がんが再発しない生き方」を選ぼうとミルコさんは格闘します。食べ物、身につけるもの、人との付き合い方、何かを行うときのスピードに至るまで……。心と体に負担をかけぬよう、そして、がん細胞につけ上がらせないよう気を配りながら、さまざまな取捨選択をしていくのです。


読みながら何度も何度も、ギクッとしました。私自身の暮らし方や生き方は、果たして間違っていないだろうか? 便利なことや楽なほうに流されて、自分の心や体が嫌がることを無神経にやってしまっていないだろうか? 何度も何度も手を胸に当てて考えました。自分の体は自分でしか守れないのに、手抜きをしていたらそう遠くない将来、がんになってしまうかもしれない。そんなのイヤだ。でもその可能性は大いにある。だって日本人の2人に1人ががんになる時代なのだから。しかもミルコさんを苦しめ、あの小林麻央さんの命を奪っていった乳がんという病は、30歳~64歳の女性の死因トップなのです。


「2人に1人がなる病気なんだから仕方ないなんて思えないし、そんな間違った状態を続けていいわけない。変えていかないと!」と、ミルコさんが語っているのを聞き、私はハッとしました。これまでは「2人に1人がなるなら、自分や家族が罹患しても仕方がないのかも」と、あきらめにも似た固定概念に支配されていたのです。でもミルコさんが言うように、「みんなががんにかかるなんて、それが原因で死ぬなんておかしい!」と気づくことが大切。まずは自分から、そして身の周りにいる大切な人たちも巻き込んで、間違った習慣を正していかねばなりません。


洋服は自分自身の証明書のようなもの

ちなみに、タイトルの「似合わない服」とは、異常な細胞が美しい網目で編まれて、着たい服じゃないものができ上がったもの(=がん)の比喩です。けれど、実生活でも似合う服を着ること、選ぶことはすごく大切なことだと私は思っています。


なぜなら私には、似合わない服を着ていた過去(個性的な人に見られたくて、奇抜なデザインの洋服を好んでいた時期)があるから。また、あるファッションプロデューサーが選んだ「デキる女風」の洋服を、半ば強制的に買わされたこともありました。好みとは異なるバブリーなファッションに大枚をはたいてしまったなんて……。その頃の私は、見かけばかり気にしているダメな人間でした。猛省です。


自分を包んでいる洋服は、「私はこういう人間です!」という証明書のようなもの。だからこそ、ミルコさんがハイブランドのスーツを脱ぎ捨て、本当の自分を取り戻したように、私たちも流行に左右されず、着心地がよく、何より自分らしくいられる洋服を選びたいものです。そして身も心も健康に、自分らしく生きようではありませんか!


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