名匠トラン・アン・ユン「できれば死ぬまで続けたい」という計画とは?

2017年09月28日 11時30分

エンタメ anan

生きていれば、いろんな困難にぶつかることもあるけれど、そんなときこそ女性の持つ芯の強さで乗り切りたいところ。そこで、この秋オススメしたい話題作は、激動の時代に翻弄されながらも運命に立ち向かった3世代の女性たちの姿を描いた『エタニティ 永遠の花たちへ』です。今回は、この作品に込めた思いや見どころについて、映像の名手といわれるあの方にお話を聞いてきました。それは……。

日本でも高い人気を誇るトラン・アン・ユン監督!

【映画、ときどき私】 vol. 117


前作『ノルウェイの森』から6年ぶりの新作となる本作でも、圧倒的な映像美にはとにかく引き込まれますが、その裏に隠されたこだわりや監督の抱える心情ついても語ってもらいました。


監督は12歳の頃にベトナム戦争から逃れるために両親と弟とフランスへ移住したこともあり、親戚を含めた大勢の家族に囲まれて暮らした経験がないという。


では、大家族に対する憧れの気持ちが本作を描きたいと思った理由でもありますか?

監督 そうですね。僕が原作を読んだときに惹かれたのは、大家族の話だったからということも確かにありました。なぜなら、大家族というのは豊かさと強さを象徴するものだと思っているからです。


でも、少人数の家族である僕にはそれがないですし、誰かが欠けてしまったら家族がなくなってしまうかもしれないという危険性もあるので、小家族であるということに対して、脆さを感じていました。だから、大家族というのは私にとっては強さを表すものとなっているのです。


今回は初めてフランスを舞台にした作品となりましたが、フランスで映画を撮りたいと思っていたのですか?

監督 というよりも、まずは原作となる本との出会いがあって、その作品がフランスを舞台にしたものだったからです。だから、今回は本当にアリス・フェルネの小説が原点でした。本を読んだときの感動を再現したかったので、そのためにはどういう映画にしたらいいかと考えて、セリフの少ない静かな映画にすることにしたのです。


ベトナムで育った経験があったからこそ、フランスを俯瞰的に捉えることもできた部分もありましたか?

監督 それは自分ではわからないですが、おそらく『ノルウェイの森』のときと同じではないかなと思っています。もし、日本の方があの作品を観て、日本人が知っている日本とギャップを感じるとしたら、きっとそれが外からの視線ということですよね。


僕のこだわりとしては、自然主義あるいはリアリズムのあるものはやりたくないと思っています。なぜなら、僕は日常生活を真似したものを画面に映し出すのではなく、舞台がどこであっても、何か現実と映画とのギャップみたいなものを感じてもらえるような映画を撮りたいからなんです。だから、僕が探しているのは、芸術の真実であって、日常生活の真実ではないんですよね。


監督の作品は映像の美しさに定評がありますが、美意識はどのようにして身に着いたのですか?

監督 僕自身の美意識というよりも、映画においては、正しいものであるほど美しさを感じるものだと思うんです。つまり、映像が物語や登場人物の心理に合っているというような一致感があったときに、より美しく感じられるのであって、それは映画の特性といえるかもしれないですね。


たとえばあるシーンを撮影しているときに、僕はモニター越しに見ていても、それが正しいのか、美しいのかどうかというのをすぐその場で言うことができます。つまり、何か特別に映画の美を探しているわけではなくて、チームのみんなが正しい仕事をしていれば、必然的に美しいものというのが撮れるんですよ。そして、美というものが人々を驚かせ、感動させることができるという考え方が僕は好きでもあります。


その美しい映像の中心で魅力を放っているのが、オドレイ・トトゥをはじめ、メラニー・ロランやベレニス・ベジョといった3人の女優たち。


それぞれ実年齢よりもかなり幅広い年代を1人で演じていますが、演出で苦労したことは?

監督 まずは撮影の前に、登場人物についてしっかりと話し合いました。そのあとに女優のほうから提案があり、僕がそれを修正するというそれだけだったので難しくはありませんでした。


ただ、今回は1人の女優が演じる年齢の幅がすごく広いということがこの映画の特徴のひとつになっていることもあり、テクニカルな面で大変なことはありました。実は、彼女たちを若返らせたり、老けさせたりするのに特殊効果を使ったのですが、その作業だけで8か月かかっているのです。


実際どういうふうにやったかというと、たとえばオドレイが80歳のシーンを撮るとしたら、彼女の顔は老けメイクをせずにそのままで白髪のかつらをかぶらせて撮影します。そのあと、シワのある肌を持つ肌用の代役にオドレイとまったく同じ演技をしてもらって、もう一回そのシーンを撮り、特殊効果で代役の人の肌を切り取ってオドレイの映像に貼り付けているのです。これは非常に微妙で繊細な技術を要する作業なんですよ。


映像とともに印象的なのは音楽の使い方ですが、こだわったところを教えてください。

監督 本作では、音楽にナレーション的な役割を持たせました。それはこれまでの作品とは違うところで、音楽というものが観客自身で物語を紡ぐ助けになっているということを発見したからなんです。


編集をしているときに気がついたことは、ある映像に音楽を合わせてみると、観る人が自分で物語を想像する助けになっているのですが、音楽を取ってしまうとその効果が薄れるということでした。そこで、かなり多くの場所に音楽を入れて、観客自身がナレーションを作り出せるようにしたのです。


実際のナレーション部分は監督の奥様が担当しているそうですが、その理由は?

監督 今回、妻には本作の美術についてもすべて責任を持ってやってもらいましたが、ナレーションも担当してもらいました。なぜかというと、現実とのギャップというのが妻の声でないと生まれないということがわかったからなんです。


すごく有名な女優さんにナレーションを頼むこともできましたが、みんながわかってしまうような声だと映画が違う方向へ行ってしまうと思いました。でも、妻の声だとフレッシュになるのです。それは僕の個人的な視点だけではなく、プロデューサーやみんなも同じ意見でしたね。彼女は素晴らしいパートナーなんですよ。


この物語で誰もが感じるのは、母から娘、そして新たな世代へと受け継いでいくことの大切さ。


では、監督自身は次の世代へ継承させたいことは何かありますか? 

監督 何を子どもたちに受け継がせるかというのは、人生で一番難しいことだと思います。僕には子どもが2人いて、価値観や何かを継承させることに成功したとは思っていませんが、少なくともこの映画で僕が伝えたいと思うのは、ヒューマニティーと思いやり、そして敬意のある人間関係です。そういったものが映画を通じて伝わればいいなとは思っています。


それから、子どもたちにいつも言っていることは、「もし2つのことの間で選ばなきゃならないんだったら、つねに難しい方を選べ」ということですね。


監督にとって継承とはどういうことだと思いますか?

監督 個人的な話になりますが、僕は小家族であるがゆえに家族としての歴史やルーツがありません。なので、その結果あまりものに固執しなくなり、「大事なものはそんなにたくさんない」と考えるようになってしまったんです。


たとえば、先祖のなかで国に貢献した大臣がいるというのがわかっていたら、それが自分の価値観として大切なものになって、子どもたちに「大統領を目指しなさい!」というような育て方をしていたと思うんですよ。でも、僕にはそういったものがないからこそ、映画を通じて子どもたちに伝えたいというふうに思っています。だから、僕は平凡な映画ではなく、要求が高い特別な映画しか撮らないんです。


そして、それが僕の観客に対する敬意の印でもあります。やはり観客に映画を提供するのであれば、複雑で深い映画でなければならないと思いながら映画作りに取り組んでいるからです。それがある意味子どもたちにも継承してほしいものかなと思っています。だから、継承というのは、言葉で伝えるということだけではなくて、自分がやっていること自体がそうなんだと思います。


最後に、監督が今後取り組んでみたい題材や構想があれば教えてください。

監督 僕は意志がない人間なので、テーマが僕を選んでいるんですよ。つまり、何かと出会って僕自身が感動し、映画の表現形式としておもしろいことができると透けて見えたときにやる気になるんです。


ちなみに、いま考えているのは、フランス料理についての作品で、調理する喜びや食べる喜び、そしてそれについて話す喜びについての映画です。僕は食べることが好きなので、もしこのプロジェクトが実現したら、死ぬまで料理のシリーズしか撮らないかもしれないね(笑)。日本食も納豆以外はイナゴも食べられるくらい全部大好きなので、日本料理についての映画も実現できたら、きっとそのプロジェクトは僕を夢中にさせると思うよ。


あふれる愛が人生に光を与える!

人生で感じる喜びも悲しみも、すべてを受け止めて生きていく女性たちの強さに、心を揺さぶられる感動作。どのシーンを切り取っても絵画のような美しさを放つ映像とともに、命の輝く瞬間を感じてみては?


ストーリー

19世紀末、花と緑に囲まれた美しい邸宅で育ったヴァランテーヌは、一度は婚約を破棄したものの、諦めない相手に心を動かされて結婚することに。その後、夫婦の愛は深まっていくが、病や戦争によって子どもたちを失ってしまうのだった。


悲しみに暮れていたヴァランテーヌにふたたび喜びを与えてくれたのは、息子のアンリと幼なじみのマチルドの結婚。いつしかマチルドのいとこ夫婦も交えて、大家族のような賑やかで幸せな日々を送ることになる。しかし、新たな試練が彼女たちを待ち受けていたのだった……。


引き寄せられる予告編はこちら!


作品情報

『エタニティ 永遠の花たちへ』

9月30日(土)、シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

配給:キノフィルムズ

©Nord-Ouest

 




写真・加藤淳(トラン・アン・ユン)
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2017年09月28日 11時30分

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