オカダ・カズチカを一躍スターにした棚橋弘至の熱い一言とは

2017年06月19日 07時00分

エンタメ anan

直木賞受賞会見で、「プロレスに勇気をいただいている」とコメントした作家の西加奈子さんは、プロレス、特に新日本プロレスの熱きファンだ。新日本プロレスのV字回復の立役者である棚橋弘至選手と、プロレスというジャンルや、新日本の魅力について女子がなぜプロレスに“どきどきする”のか、熱くお話しいただきました。

プロレスラーは禁断のことをする存在。



棚橋:“どきどきする”というのが今回のテーマですよね。普段やっちゃだめなことをやる、というのもどきどきのひとつのポイントかなと。小説の中で言えば、物語が現実とは違う様子で動き始めるところに、読者はどきどきするわけじゃないですか。

 

西:そうですね。

 

棚橋:で、プロレスは何がどきどき面白いのかなって考えたことがあったんですけど。僕らは成長していく中で、「人は叩いちゃダメですよ」とか、「悪口言っちゃダメですよ」とか、「物を壊しちゃダメですよ」とか言われて大人になるわけじゃないですか。プロレスラーって、全部やるんですよ。


西:ははははは!!

 

棚橋:だから、成長する過程で抑圧していたもの、やっちゃダメだと言われてたこと…「高いところから飛び降りちゃダメですよ」とかを全部やって、欲望を解放しているところが、無意識下でどきどきにつながってるんじゃないか、っていう分析をしました、はい。


西:でも、プロレスを見ても、いじめは起こらなそうですよね。それがすごい。

 

棚橋:そうですね。プロレスを見て、痛みを知るからだと思います。僕は、プロレスは道徳教育にもすごくいいんじゃないかと思っていて。攻撃面にフォーカスを当てるのではなく、受けている側に当てると、やられても立ち上がる強さや、諦めない強さっていう面もある。そんな気持ちを子供たちが持ってくれたらいいなあと思います。


西:プロレスのすごさのひとつって、“受け”だと思うんです。棚橋さんはベビーフェイス(※1)でスーパースターでいらっしゃるけど、棚橋さんだけが輝くわけじゃない。攻撃を受けもするし、その結果相手が輝く、っていう感じがめちゃくちゃ美しい。


棚橋:攻めてるときもあれば、やられているときもあるじゃないですか。勝つときもあれば、負けるときもある。プロレスから広げて解釈をすると、「人生とんとんでいいじゃないか」っていうね。いいときばっかりじゃないけど、悪いときばっかりでもない。とんとんでいけたらその人生は素晴らしいな、って、だんだん達観してきましたね。まあ、いま僕は2~3年かけて下がり切っているので、ビッグカムバックしないととんとんまでいかないんですけど(笑)。


西:プロレスラーに自分の人生を重ね合わせるのはありますよね。棚橋さんにもう一度勝ってもらいたい、って託すような。それは性差に関係ない感覚だと思います。


棚橋:この群雄割拠の新日本プロレスで、ずーっと(と、手を頭上に)ここにいられるレスラーってなかなかいないです。強いて言えばオカダ(※2)がいますけど、僕も内藤(※3)もアップダウンして、でもそっちのほうが面白いんじゃないかって思っています。西さんの『サラバ!』という作品で言えば、男子がみんな気にしている「頭髪が薄くなる」という残酷な、もう本当に残酷な描写があって…。


西:あはは! 残酷ですか。


棚橋:読みながら、ああもう俺もどうしよう! って。そんな残酷さこそ、自分を物語に引き込ませて、現実味を与えてくれるし、自分に置き換えやすくさせる。それと同じで、リング上では、かっこいいだけじゃダメなんです。「ああ、かっこいいな」だけで終わっちゃう。人はかっこ悪い姿とか、情けない姿とか、悔しい姿により共感するんだな、って。


西:分かります。確かに、ずっとトップにいる人っていないですもんね、現実には。人生はしんどいときのほうが多い。だからこそ、レスラーのしんどい姿にグッときます。オカダさんも、棚橋さんに負けて泣いて(※4)、またウワッて人気が上がりましたもんね。


棚橋:それまでオカダはサイボーグだったんですよね。でもあそこで泣くことで、「オカダも泣くんだ」って共感を得た。オカダ・カズチカっていうレスラーに血が通い始めた。そして僕はマイクを掴んで、「オカダ、IWGP(※5)は遠いぞ!」と。


西:追い打ちをかけた(笑)。でもあれ、棚橋さんのお優しさだと思いました。あのときだけはヒールになってダメ押しすることで、余計負けた印象が強くなるから。


棚橋:コントラストが大事ですね。圧倒的な勝者と敗者のほうが、逆転したとき面白いじゃないですか。


西:プロレスって、負けた人にもスポットライトが当たるでしょう。そこにすごく勇気をいただきます。ある芸人さんが、ずっとウケないとダメだと思ってた、負け方を知らなかったと仰ってて。プロレスを見て、「負けていいんだ」って思うようになったって言うんです。


棚橋:すごく深い話ですね。大勢の前で負けるのって、苦しいし、恥ずかしい。でも、プロレスというジャンルの特異性でもあるんですが、その日で終わりじゃないから、また次やり返してやる、ってなるんです。もちろん、切り替えるのに時間はかかりますけど。ファンの中にも、今回は負けたけど次は頑張ってほしい、っていう気持ちが芽生えますよね。プロレスはワンシーズンで終わりじゃなくて、ずーーっと続いていくんです。


※1 プロレスで言う「ベビーフェイス」は、「善玉」「正義」の意味を表す。日本では「ベビー」と略すことが多い。反対に「悪玉」「悪役」は、「ヒール」と呼ばれる。

※2 オカダ(・カズチカ) 新日本プロレス所属。191cmの長身にズバ抜けた身体能力が備わる、日本プロレス界の若き先駆者。ヒールユニット「CHAOS」所属。


※3 内藤(哲也) 新日本プロレス所属。ジュニア級で活躍したのち、ヘビー級転向。現在、「LOS INGOBERNABLES de JAPON」のリーダー。


※4 オカダ・棚橋戦 15年1月4日、東京ドーム大会のメインイベントにて、当時の王者・棚橋にオカダが挑戦し、棚橋が勝利。負けて花道を下がる際、いつもクールなオカダが号泣した。


※5 IWGP(ヘビー級王座) 新日本プロレスが認定するベルトのうち、ヘビー級の王者の証。新日本の象徴でもあり、これを巻く選手は、新日本の「顔」。’17年6月1日現在、オカダ選手が王者。


にし・かなこ 作家。イラン・テヘラン生まれ、大阪育ち。’15年、『サラバ!』(小学館)にて第152回直木賞受賞。近著に『i』(ポプラ社)。


たなはし・ひろし 新日本所属のプロレスラー。IWGPヘビー級王座通算最多防衛記録保持者。キャッチフレーズは「100年に一人の逸材」。


※『anan』2017年6月21日号より。写真・内田紘倫


(by anan編集部)

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