会社を辞めて、こうなった。【第51話】 投資で言えば、大暴落状態の私。 渡米で思い知る両親無償の愛。

2017年06月13日 18時40分

エンタメ anan

一時帰国中、インターチェンジの350円の黒豆ソフトクリームから高級温泉旅館一泊旅行に至るまで、全て70歳を過ぎた両親の奢りで堪能してしまった、現在中年無業者状態の筆者・土居。社会の澱の中で浮遊し続けること早2年半、両親への「申し訳ない……」という気持ちを超えて芽生えた想いがありました。

写真/文・土居彩

【土居彩の会社を辞めて、サンフランシスコに住んだら、こうなった。】vol. 51

【第51話】投資で言えば、大暴落状態の私。渡米で思い知る両親無償の愛。




バークレーに戻ってきました。香港経由で26時間かけてというハードな移動だったのですが(早朝4時に香港に到着。羽田空港行きは870ドル、この帰りのサンフランシスコ行きの便のコストは、なんと0ドル!)、7時間のトランジット待ちのあいだ、香港空港で脚を伸ばしながら爆睡できたことが功を奏し、時差ボケゼロです。「ひゃー、26時間?! 大学の卒業旅行以来だよ〜」と億劫でしたが、何がどう転じるかなんて、全くもって予測不可能ですね。とはいえいつの日か直行便×ビジネスクラスに乗ってみたいと正直淡く妄想したりもしますけれど……。まぁ、踏ん張ります!


でもね……。一時帰国前に原因不明の咳が2か月以上続いたという経験から、気力でカバーできたつもりでも、精神的・肉体的キャパシティを超えるストレスはなんらかの症状として確実に生じる。そんな年齢に差し掛かっていることを実感しました。そこでどうしても頑張りすぎ、やりすぎてしまう傾向があるので、今後のテーマはバランスを崩さない範囲で頑張ること。では何を今やる必要がある? 実はあらゆるミラクルが重なっておばあさんが施設を退去し、また今まで通り一緒にバークレーで暮らせることになったので(そう、現在の私の未来ほど予測不可能なものは無い)、現実問題として今私がクリアしなければならないミッションは少なくとも5つ。つまり心理学博士課程の大学院を受験するために、強い推薦状が3通(教授など大学関係者に限定。出版社での職歴はノーカウント、トホホ…)、今後研究したい内容に関連する研究室での経験(最短でも1年。しかしいまだにリサーチ・アシスタントのポジションを獲得できず)、GREスコア(先日参考書を初めて開き、暗号としか思えない英単語の羅列を目にし、ショックで泡を吹く)、TOEFLスコア、できれば実験結果を分析するためのプログラミング能力(現在 “R” という無料のプログラミングソフトを独学中。吐きそうです)が必要です。それから自腹で6年間も大学院で学ぶなんてムリなので、奨学金がとれなかった場合はたとえまぐれで受かったとしてもアウト! とはいえ年齢的に日本の奨学金を申請できず……(高齢化社会なのに!)。と、笑っちゃうぐらいのイバラの道なので(私にとって)、かなり綿密に時間をかけて準備をする必要があります。


私は大学院を志願するレベルにも達していませんが、バークレーのプログラム同級生たちはすでに大学院に受かり始めています(同じタイミングでコースを始めたのに、もはや6通も推薦状があって誰に書いてもらうか悩んだとか! マジで?!)。焦ったところでどうしようもないので、アリとキリギリスの寓話じゃないですけれど、目標に向かって着実に行動しながらも、人と自分を比べてオーバーヒートせずに持続可能な形で歩み続けることが目下の課題ですね。また、ステップを踏んでいく過程で、「本当にこれをやりたい?」「適性がある?」と説い続けながら見極めていくことも大切だと思っています。同級生とはまったく年代が違うので、「あ、やっぱ違った」と思って方向転換をするにしても、私には彼らほどには時間が無いので(この間も「彼はいっても自分と同年代だろう」と思っていた同級生までもが13歳下で軽くショックを受けました)。


“開き直る“ か ”心の病気になる” か。



『意義ある人生って?』、『そのために必要なことって?』。その過程とその先にある平穏な心を探究したいと、まずは感情研究の権威であるバークレー大のケトナー博士に学ぼうとアメリカにやって来ました。先生の研究室での経験、そして授業から学んだのは、「社会的なつながり」「コンパッション(慈悲の心)」が幸福へのカギになるということ。でもいまだに私にとってそれらが何なのかが腹に落ちてはいないのです。アメリカに来て、はや2年半。けれども、私の思い込みや精神的なブロックも影響しているのでしょう。いまだに “心友” と呼べるアメリカ人に出会えていませんし、論文や教科書にかじりついて頭で学んだことに体験が伴わず、イマイチまだよくわからないのです。「何か実感したい」とギフト経済やパーマカルチャーの世界に生きる人たちと過ごして、取材もさせていただきました。でも貯金で生活している身として、やっぱり生きるためにはお金は必要だと思うし、金銭的な理由でオーガニックやフェアトレードじゃないものを購入すると罪悪感のようなものを持ってしまったりして、なんだかハッピーな状態になれない。


そんなふうに思ってしまう自分を責めてボランティアに勤しんでみたり、「何も食べないことが最大のエコ!」と何を思ったのか断食に近い状態で生活してみたりとストイックになった時期もあるけれど、それってナチュラルな状態の私じゃないんですね。どこか人の目を意識して、やっているというような……。オシャレするのも好きだし、一週間同じ服でガリ勉するのも嫌じゃない(臭いが大丈夫なら……)。バーでラム酒もいいけど、マインドフルネス合宿でお坊さんや尼さんから教えを乞う時間も必要。そんな「どっちつかず」な自分を中途半端だと認められず、完璧な理想形を求めてどちらかに偏ろうとしたときもありました。けれど「そんなことではダメだ」「こうじゃないといけない」とジャッジされながら社会の澱のなかに浮遊し続け、“開き直る” か ”心の病気になる“ かどちらかだというギリギリの状態まで追い込まれたことで、どっちつかずこそが自分のスタイルなんだと認められるようになったのです。どっちつかずというのは、どちらの世界も垣間見られる立場に居るということでもあります。それが良いのか悪いのかなんて、正直私にはわかりません。ただ、人生においてそれぞれがそれぞれの歩みや学びに集中して、責任を持つ自由があってもいいのではないかと思うのです。静かに周囲を観察しながら、ほかの誰でもない自分にとって “心地が良い” 中道がどこにあるのか。それを納得がいくまで模索する時間を持つことを自分に許してあげたいのです。


両親の言葉の奥にある愛に気づく。



客観的に現在の私を見れば、戸籍上「ひとり世帯主」ながら貯金を切り崩し生活する、吊り橋の上に建てられた積み木の家のように不安定な状態です。シビアな話、今の状態で私が帰国して部屋を借りようとしても、ムリなんじゃないかなぁ。そんな宙ぶらりんな状態を体験し続けるなかで思い知ったのは、親の愛のものすごさ。今回一時帰国中に父に言われたんです。「アヤは絶対どうしょうもない状態になって帰国することになる。アヤがどうなってもあと5年はなんとかやれるように仕事を頑張る。だから5年以内に決着つけてね」と。その言葉に対して私は強い怒りを感じ、「お父さん、言葉って言霊といって力を持っているから、そんなことを言うと現実化してしまう可能性がある。だから、そんなふうに思うのも言うのも私のために止めて。それからたとえ野垂れ死ぬとしても、お父さんを頼るつもりは決して無いです!!」と反論。すると「いや、アヤは絶対どうしようもなくなる!」と核心に満ちた表情で断言する父。両者譲りません(笑)。それを仲裁するように、母は「お母さんは、アヤちゃんのことを信じているから!」と。これまた思いが重い、笑! おふたりさん、心の声が全部ダダ漏れになってますよ〜。


でも気づいたんです、言葉の奥にある二人の深い愛情を。だって現実問題、この2年半の間ずっと私の猫の世話をしてくれているのは父と母です。彼女(猫)がストレスで血尿を出したりと、最初の1年はたいへんだったそうです。それを毎日病院につれていき、療養食に切り替え、彼女のバースデーパーティまで開き…(笑)。今回帰国したら、父は毎日せっせと猫のトイレの始末をしていました。猫が苦手だった母は、図書館で『猫の飼いかた』の本を何冊も借りて学習したそうで、今では岩合光昭さんの『世界ネコ歩き』を毎週楽しみに猫と一緒に観ています。旅行に行きたいけれど猫が居るからと我慢もさせている……(今まで働き詰めだったから、旅行行きたいよね…)。さらに母は、私の海外保険や銀行の手続きも嫌な顔ひとつせず行ってくれました。今回も私の帰国に合わせて高級旅館の旅を用意してくれ、インターチェンジの350円の黒豆ソフトクリーム(それぐらいお父さん貯金から自分で払えるよ、私…)に至るまでぜ〜〜〜〜んぶ、70歳を過ぎた両親からの奢り! ここまでやってくれる人ってほかに居る? ぜ〜〜ったいに居ないですよーーー!!


しかし、これが「土居彩」への株式投資だったら、現在完全に大暴落ってやつですよね。まさに大損! 年齢から考えたら、私のほうが奢るべきだというのにネ……。心から親ってスゴイと思いました。ごめんなさいを超えて、感服です。親というのは、自分で努力して得た人間関係じゃないですよね。だから本当に私は彼らの娘でラッキーだったと思います。自分の力でここまでの繋がりを作ることが今後できるのだろうか……? 親が私に与えてくれたような家族を自分で作っていくことができるのだろうか…?? この件に関して、今は全く自信が無いです、ハイ。



「いまだに母親になれていない」などと劣等感を持ったこともありましたが、今は「そりゃ、そうだわ」と思います。自分以外の存在に対してこれほどの無償の愛を注ぐなんて、今の私の人間力では不可能です。思い通りにならない存在に対して、ただただ尽くすということですからね。彼らへの感謝と尊敬の念は今後も忘れないようにしたいと思います。今までは両親が発する言葉の表面じりにのみ反応して「キィ!」となったこともありましたが、“何者でもなく、ただ社会に浮遊する私” を体験し続けることで、彼らの発言の奥にあるもの、つまりひとつひとつの行動という形に現れる深い愛情を感じられるようになりました。これは今回の一時帰国で感じた、渡米によって得た財産のひとつです。


愛され、守られているという実感が冒険に繋がる。



ところで、心理学者・精神分析学者のジョン・ボルビーという人が確立した愛着理論というものがあります。それによると幼児は生後6か月から2歳頃までのあいだ養育者(親)と親密な関係を持つことで社会的、精神的な発達を遂げるといいます。養育者の愛を確信し、彼らから “愛される” “守られる” ことを信じて疑わない、健全な愛着を培った子どもは、養育者を安全基地(何かがあったときに避難できる精神的な拠り所)として新しい物事を探索するのです。この愛着スタイルは世界をどう解釈するかという彼らの物の見方に生涯影響を与えるといいます。あのときは気づきませんでしたが、14年勤めた出版社を突然辞めて今まで暮らしたことのない外国に飛び立ち、まったく別のことを始め出した私という気質、そしてその決断。これらもまた、私が彼らからの揺るぎない深い愛を感じて育ったことの現れなのかもしれませんね。


See You!


67の写真:

香港からの帰りの便の搭乗ゲート。偶然私の誕生日ナンバーでした! いいことありそう♡


猫の写真:

尻尾と体のサイズがアンバランスな近所の猫、ボボ。でもそれが最高にかわいい。


YOGAスタジオの写真:

東京で招いてもらった心友のヨガが素晴らしすぎて、再びバークレーでもヨガを始めることにしました。


猫と表彰状:

渡米後に両親から送られてきた写真。彼らの遊び心とクリエイティビティに脱帽(脱力?)した。


海の写真:

両親と行った天橋立旅行。完全に彼らからの奢り! いつか私が奢ってあげたいから(でもだいぶ先だろうから)どうか長生きしてね…。


SEE YOU:

一時帰国中、心友たちがずっと行きたかった千葉にあるブラウンズフィールドに連れて行ってくれました。

anan

2017年06月13日 18時40分

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